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VENUS
Kawasakiのninjaをぶっ飛ばして、桐壺グループのビルへ向かう。あの姉もきっとすぐ追いかけてくる。少しハンデをくれてやったとでも思っている。
「不愉快なんだよな……」
これは私が考えたことなのに、勝手に横から入ってきて、我が物顔で立ち入ってくる姉。『コープスリバイバー』だということは知っていた。しかし緑と組んでいたのが気にくわない。それを緑が隠していたことも気にくわない。一刻も早くあのクソジジイをぶち殺さなければ気が済まない。『イングロリアル・バスターズ』のレイン中尉のように頭皮を剥ぎ取り、額に桐壺グループのマークを刻みつけてやる。ネット上で私の顔と私の体で好き放題する、あの男。
桐壺市に向かう人気のない県道を突っ走っていると、逆走してくる車のライトが見えた。
「この車、何なの?」
黒澤がアクリルで仕切られた後部座席に閉じ込められて嘆いた。
「あの『ブラッド&サンド』の車、もしかして……」
「緑さん、これやっぱアレですよね」
赤瀬はアクリルで仕切られた助手席でにやにやと笑った。
「ああ、アレだ。日本でこんなのアリか?」
黒澤が吹き出す。
「答え合わせしてくれ」
緑と赤瀬は嬉々として振り返った。
「耐死仕様だよ、『デス・プルーフ』だ。」
桐壺孝光は業務中もVRチャットを止めない。ボイチェンが救いだ。相手は「霧桐☆マイ」と信じて疑わない。この姿でVRチャットで乱交するのが止められない。娘の姿で。VRでは男も女も関係ない。ボイチェンされてない美少女の男もいるが性別なんて構わない。いくら朱鷺子に脅されようが、やめるつもりはない。だってこれは……あまりにも気持ちがいい。
「アンタもしかして霧桐☆マイ?」
「ワオ、似すぎだよ」
逆走してきた車はオロチだった。朱鷺子のninjaの行く手を塞ぐ形で滑って止まる。中から二人の女が見つめる。
「人違いよ。それは私の親父がやってるVRモデルだから」
「やっぱ似てるよなあ」
「私に何の用?あんたらも『カクテル』なわけだ。」
朱鷺子がエンジンをふかすと、オロチもハイビームを向けてくる。
「こっちも仕事でさあ、あんたを捕まえなきゃいけない。もうあんなに被害出したんだよ?元に戻れると思ってんの?」
褐色肌にコーンロウの女が青く編み込んだ髪をかきあげた。金髪のショートの女が睨む。
「車に乗れよ、お嬢さん」
「嫌よ、アイツの息を止めるまでは絶対に」
「『カクテル』の幹部でも話が進んでるのを知ってるか?!」
金髪のショートの女が助手席から怒鳴る。
「私は『ラスティネイル』だ。あんたの取り引きの10億が、先にあのジジイを殺されるとうちらに払われないんだ。それじゃあ困るんだよ。『コープスリバイバー』もそれを配慮してあんたを逃したんだ」
朱鷺子が煙草を吸い始める。
「それで?その支払いを寄越せって?あんたら全員ハイエナじゃない。」
「それじゃあアンタは死骸だよ、お嬢さん。半額『カクテル』に寄越せよ、そしたら見逃すからさ」
運転席のコーンロウの女が嘲笑った。
「断ったらどうなるの?」
「アンタはここで終わり。愛しの『サイドカー』が助けに来てくれるかな?お別れの前に教えてやるよ。あたしは『スティンガー』。お前の遊びはここで、おしまい。」
撃たれると朱鷺子は深い眠りに落ちた。
「はやくずらかるわよ、ラスティ。そっち持って。」
「このバイクは?」
「そんなんほっといていいわよ、リアに積んで」
リアの中に朱鷺子が放り込まれ、急いでラスティネイルとスティンガーも乗り込んだ。
「スティンガー、やばい。車が来る。まずい」
「ずらかろう、パトカーにしてはマッチョな車だ」
思い切りスピードを上げてオロチが走り出すと、ゆっくりとその車はスピードを落とした。
「なんかあの車変じゃないか?」
「待って!道路にバイクが倒れてる!……朱鷺ちゃんの乗ってた奴!」
「あの車、オロチでしたっけ、ライトが……いくつもある……」
緑が急発進する。赤瀬がおろおろしながら叫ぶ。
「緑さん!あの中に朱鷺子さんがいるんだから!リアを壊しちゃだめだ!」
「あのオロチは『ラスティネイル』と『スティンガー』だ。絶対に逃すわけにいかない。桐壺グループの本社ビルまで」
その時黒澤が笑い出した。
「緑、おれ、あれをやりたいんだけど」
「は?1回しか見てないのに出来る訳ない」
「黒澤、ふふ、釘バット貸すよ」
そう言うと黒澤が、釘バットを持って車体から身を乗り出した。
「緑!ぶっ飛ばせ!!」
ぐるぐる釘バットを回しながら、「デス・プルーフ」仕様のパトカーはオロチを追いかけ出した。
「これは僕の考えなんだけど」
そう赤瀬が切り出した。
「凄腕の女殺し屋たちの目を欺くには僕らは女装しなきゃいけないんじゃないか?」
「おまえ頭大丈夫か?」
黒澤がこめかみを指でトントンと叩きながら尋ねた。
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