I WANT TO BREAK FREE

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I WANT TO BREAK FREE

朱鷺子を棺に納めて懐中電灯を納めて、ブーツにナイフを入れて、トンカントンカン蓋に釘を打つ。二人で汗だくで土をかぶせる。もう山の中はすっかり真っ暗だ。 「ものすごい汗だくだ、それにものすごい汚れた、最悪だ。おまえんち、今日親は?」 「最悪はこっちのセリフだよ。二人ともヤクザに頼まれて静岡の方に出張してるから帰ってこないと思うよ。一体どうするんだ、これから」 「今日ここで青姦することは他のやつは知らないし、俺は泥まみれでも問題ない」 「そうじゃない、彼女の親をどうするかって話だ、だって彼女の家は……」 その時轟音と共に埋めた朱鷺子の拳が土から突き上げた。美しい顔を泥まみれにして、朱鷺子が笑ってのそのそ出てくる。 「赤瀬くん、わたしが必殺奥義五点爆心拳の使い手で良かったわね」 赤瀬は絶句した。黒澤は横で爆笑している。 「黒澤くん、私頼んだの午前中だけなのよ。こんなにかかるなんて聞いてない」 「いやおれもまさかここまでなるとは思わなくて…………」 「朱鷺子さん本当にごめん……このクソ澤のせいで……でも脈も拍動もなかったよね?」 「それは緑に麻酔してもらったの。仮死状態から覚めるまで意外とかかったわ。そろそろ出てきていいわよ」 「は〜い!お疲れ様でした!」 遠くの物陰からガサガサと緑ちゃんが出てくる。よくもまあ、あんな遠くの木陰に数時間いたものだ。 「朱鷺子さんはキルビルなの?」 「お前は本当にキルビルが好きだな。」 黒澤が煙草をふかし出すと、朱鷺子も緑も揃って煙草を吸い出した。赤瀬はその匂いに顔をしかめている。 「何が何だか、という顔ね。まず、青姦はしてないわ。私はビアンだから。黒澤くんの彼女だった緑は私の元カノなの。それに緑も私とよりを戻したがってた。」 「そうです!それに黒澤くんはサイコパスなので、その傲慢さにはついていけませんでした!」 緑は朱鷺子の汚れを拭いて綺麗にしている。 「緑、今まで悪かったな。これで手切れにしてくれ。」 ちなみに緑ちゃんは生化学コースだが、赤瀬には十分サイコパスに見えた。ラットをにこにこ解剖していたのを覚えている。黙祷の時、緑ちゃんだけが薄目を開けて微笑んでいた。彼女の家は大病院だ。麻酔を手に入れるなんて訳もない。 「しかしなんで僕を巻き込んだんです?僕は休学中の引きこもりですよ。」 「あなたと黒澤くんの信頼関係を図るためよ。これは彼からの提案だけど。でも大丈夫そうね。」 「はあ?おいクソ澤。お前何考えてる?」 「俺たち上手くやれると思うんだ。俺が殺して、お前が掃除する。WIN-WINの関係だ」 「明らかに僕が尻拭いじゃないか?」 朱鷺子が紫煙を吐き出した。 「ボーイズ、つまり、私が言いたいのは、私を誘拐して、うちの親から金を巻き上げようって話よ。私の家は知ってると思うけど桐壺グループよ。そんじょそこらのお金持ちじゃないわ。長者番付にもランクインしてる大企業よ。でも私はね、緑と幸せに生きていきたいのよ。今のママは3人目。それにパパは私をレイプしてるの。あんなにお金があるのに実の娘を性的虐待するなんて、ぶち殺してやりたいわ。パパは私にいくらまで出すかしら。私を誘拐して、黒澤くんには誘拐の主犯になってもらうわ。赤瀬くんにはお掃除をしてもらう。緑には色々助けてもらうわ。恋人だし」 「そんなこといきなり言われても……」 赤瀬も人間だ。正直困る。だいたい黒澤のせいだ。友達だからってやっていいことと悪いことがある。 「それもそうね、腹が減っては戦はできぬと言うし、山を降りたところのデミーズに行ってみんなで夜ご飯でも食べましょう。私が奢るわ」 四人は棺の中に入っていた懐中電灯を持って夜の山をぞろぞろ降りていった。 「ああっ!!」 「何だよ赤瀬。小林製薬かよ。」 「棺どうしよう」 「土に埋まってるから大丈夫だろ」 「わたし、土に埋まったの初めて。赤瀬くんナイフ返すわ」 「ありがとう。そういえばなんでヤってないのに黒澤はちんこまるだしだったんだ?」 「それは趣味だよ。」 「趣味かあ……」 「正直、黒澤くんの露出癖にはついていけませんでした!汚い!金玉の毛をきちんと剃ってください!!」 緑ちゃんがぷんぷん怒りながら黒澤に向かって唾を吐いたのを黒澤が素早く避けたので、赤瀬の顔に唾がかかった。朱鷺子がそれを見て大笑いしたのを見て、赤瀬はやっぱりユマ・サーマンに少し似ていると思った。『パルプフィクション』の時の、ユマ・サーマンに。
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