chapter1 来たのはDだ/女神と天使の密会

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chapter1 来たのはDだ/女神と天使の密会

 聞き慣れない音楽が耳の中を撫でている。  クラシックだろうか。知識がないから解らないが、きっと高尚な曲なのだろう。  天井に付けられたシャンデリアが空調の風で微かに揺れ、大理石の床が少し冷える。  目の前のテーブルには清潔なシーツが引かれ、高級そうな食器達が並べられていた。  まさに、上流層(おかねもち)の社交場と言った雰囲気だ。  僕は何とか腰を落ち着かせようと努力したが、妙な緊張とむず痒さがそれを許さなかった。  我ながら、無理もない話だ。  ここは『クリトリスクエア』有数の高級レストラン。普段、コンビニとファーストフードしか行かない僕にとっては、分不相応な空間だった。  僕の名前はゴウ・ルーデンボール。  国際連邦警察スペルマシティ支局の捜査官で、階級は警部。  所謂キャリア官僚ではあるが、その実態は一介の国家公務員(おまわりさん)である。  国家公務員なら、高級レストランの一つぐらい足を運ぶのも容易ではないか、と思われている諸兄ら。  現実はそんなに甘くないと、断言させてもらおう。  捜査官なんて因果な商売である。  常に危険と隣り合わせだし、捜査で朝も夜もなく駆けずりまわされるし、給料も安い。  しかも、どれだけ志を高く持とうがいかんともし難い権力の差は存在し、利用されるだけ利用されて、捨てられてしまうことすらある。  僕もご多分に漏れず同じだった。  元々は連邦警察中央に勤務するキャリア官僚であったのだが、元上司の不正を暴こうとして失敗し、罪を擦り付けられた挙げ句、この『スペルマシティ』に左遷させられたのだ。  犯罪発生率90%以上。  多数の性風俗店を内包した、世界最大の歓楽街にして犯罪都市。  それが、『スペルマシティ』だ。  上の連中としては、不正を知る僕を始末するつもりで送ったのだろうが、どっこいこうして僕は生きている。  まだまだ死んでやるつもりもない。  生きて、もう一度あのタヌキ親父どもを叩きのめしてやる。  …失礼。少々愚痴っぽくなってしまった。  散々利用されて、濡れ衣まで着せられた経験からか、どうしてもネガティブな感情が出てしまう。  引きずる必要はないとは思っても、コントロールするのは中々難しい。
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