chapter3 正・義・慰・労

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「…あの時、本気でぶん殴っておけば良かった」  実に胸糞が悪い。  何が現人神(あらひとがみ)だ。やってることは畜生の所業じゃないか。  記録を読み進めていく度に、指先に力が入る。  ディープへの怒りか、被験者への無力感か。もしくは、その両方か。  キーボードを叩き潰しそうになった時、僕の肩から細くしなやかな腕が伸びた。 「はい、そこまで」  …マリアだった。  彼女はそのまま僕を抱き締めると、耳たぶを甘噛みした。  甘く、囁くような吐息が耳元に伝わってくる。  不思議なことに、僕はそれで身体から力が抜けてしまった。 「あんなオカマ相手に熱くなるなんて勿体無いわよ」 「…すいません。しかし…」 「焦らなくてもいつか必ず決着つけてやるわ。あいつのチ◯コもぎ取ってセルフファ◯クさせてやるわ」  その時はゴウも手伝うのよ…そう結んで、マリアは笑った。  あまり想像したくない絵面だが、僕もつられて笑ってしまった。  些か不謹慎ではあるが、マリアなりに慰めてくれているらしい。  こういう所は上司してるな、とつくづく思う。 「…さて」  マリアは僕を椅子ごと振り向かせると、向かい合った姿勢のまま、僕の足に腰を降ろして身体を密着させた。  近い。とにかく近い。  それに密着されているせいか、マリアの感触がダイレクトに伝わってくる。  体温、吐息、そして、心臓の鼓動…。  やってることはいつものセクハラと大差ないのに、今は何故か心地好かった。
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