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「失礼します。ワインをお持ちしました」
整った顔のウェイターが、ワインを手にやって来た。
僕、そして、隣に座る女性のグラスにワインを注ぎ、恭しく頭を下げて去っていく。
「顔が怖いわよ。ちょっとリラックスしなさい」
女性はしなやかな指先でワイングラスを掲げながら言った。
なんてことのない一連の動きが、まるで映画のワンシーンのように美しく、実に絵になる。
彼女の名はマリア・エボル。
スペルマシティ支局の局長にして、僕の上司だ。
目映いばかりの金色の髪と、蠱惑的な魅力を持つ切れ長の目。
その姿はまるで神話の女神のように美しく、今日は着飾っていることも手伝って高貴さを漂わせていた。
お尻が落ち着かない僕とは違い、態度も堂々としている。
経験の差という奴か。一応、僕の方が歳上だが、我が女王さまの振る舞いには年の功など意味を成さないようだ。
「折角、夕食に招待したんだから楽しみなさいよ」
マリアがグラスに口を着け、ワインを口に含む。
所作が一々色っぽい。下手な童貞なら、理性が崩壊してしまうだろう。
…いや、僕も童貞なんだけど。
そんな美女と高級店で夕食なんて、世の男性達の憎悪を一身に受けそうな状況だが、僕としてはあまり有り難くない。
まず第一に、マリアは上司である。
誘惑してくるとはいえ、上司と爛れた関係になるのは国家公務員としてどうだろう。
そして、第二の理由だが、これが全てと言ってもいい。
マリアは色々と規格外なのだ。
女神の美貌に邪神の淫靡。それだけでも厄介だが、内に秘める破壊力は想像を絶する。
単騎で国を滅ぼしても尚足りないだろう。いやマジで。
そんなマリアだからこそ敬ってはいるが、それは災害や神々に対する畏敬の念であり、人間としての好意はまた別問題である。
どちらかと言えば、彼女の活躍は遠くから見ていたいかな。立場が許さないのだが。
「ボス、待ち合わせの相手と言うのはどんな方なんです?」
間を持たせようと聞いた僕の質問に、マリアは僅かに眉をひそめた。
ちょっと不機嫌になったらしい。と、いうことはマトモな相手じゃないな。
「『クリトリスクエア』の有力者ってトコね。古い付き合いなのよ」
「それは…さぞかし変わった方なんでしょうね」
「あら、解るの?」
「あなたの態度を見れば解ります」
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