chapter1 来たのはDだ/女神と天使の密会

2/3
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「失礼します。ワインをお持ちしました」  整った顔のウェイターが、ワインを手にやって来た。  僕、そして、隣に座る女性のグラスにワインを注ぎ、恭しく頭を下げて去っていく。 「顔が怖いわよ。ちょっとリラックスしなさい」  女性はしなやかな指先でワイングラスを掲げながら言った。  なんてことのない一連の動きが、まるで映画のワンシーンのように美しく、実に絵になる。  彼女の名はマリア・エボル。  スペルマシティ支局の局長にして、僕の上司(ボス)だ。  目映いばかりの金色の髪と、蠱惑的な魅力を持つ切れ長の目。  その姿はまるで神話の女神(ミューズ)のように美しく、今日は着飾っていることも手伝って高貴さを漂わせていた。  お尻が落ち着かない僕とは違い、態度も堂々としている。  経験の差という奴か。一応、僕の方が歳上だが、我が女王さまの振る舞いには年の功など意味を成さないようだ。 「折角、夕食(ディナー)に招待したんだから楽しみなさいよ」  マリアがグラスに口を着け、ワインを口に含む。  所作が一々色っぽい。下手な童貞なら、理性が崩壊してしまうだろう。  …いや、僕も童貞(そう)なんだけど。  そんな美女と高級店で夕食(ディナー)なんて、世の男性達の憎悪を一身に受けそうな状況だが、僕としてはあまり有り難くない。  まず第一に、マリアは上司である。  誘惑してくるとはいえ、上司と爛れた関係になるのは国家公務員としてどうだろう。  そして、第二の理由だが、これが全てと言ってもいい。  マリアは色々と規格外なのだ。  女神の美貌に邪神の淫靡。それだけでも厄介だが、内に秘める破壊力は想像を絶する。  単騎で国を滅ぼしても尚足りないだろう。いやマジで。  そんなマリアだからこそ敬ってはいるが、それは災害や神々に対する畏敬の念であり、人間としての好意はまた別問題である。  どちらかと言えば、彼女の活躍は遠くから見ていたいかな。立場が許さないのだが。 「ボス、待ち合わせの相手と言うのはどんな方なんです?」  間を持たせようと聞いた僕の質問に、マリアは僅かに眉をひそめた。  ちょっと不機嫌になったらしい。と、いうことはマトモな相手じゃないな。 「『クリトリスクエア』の有力者ってトコね。古い付き合いなのよ」 「それは…さぞかし変わった方なんでしょうね」 「あら、解るの?」 「あなたの態度を見れば解ります」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!