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「……何を言ってるんだ、莉緒」
顔は笑っているが、目は笑っていない。
「酔ってるのか」
「……あの封筒は、お金でしょ」
原田は笑うのをやめた。
「癒着金か何かでしょう? それを綾香に見られた」
校舎裏。多分綾香は、マキに言われてゴミか何かを捨てに行ったのだろう。
そこが受け渡し場所だった。
「発覚を恐れて、口封じに綾香を殺したんだ。ずっと機会を狙ってたんだ」
綾香は、何だか分らなかっただろう。
言われるまで忘れていたほどだ、人に言う事はなかったと思う。
こいつは、疑心暗鬼になって、囚われていたんだ。
「……綾香が、言ってたのか?」
声色が、いつもと違う。
「俺は、教師になるはずでなかった」
目の色まで変わってきた。瞬きもせず、淡々と話し続ける。
「一流の会社に入って、エリートの道を歩くはずだった。そのためにレベルの高い大学に入ったんだ」
両手の掌を見ながら、ほぼ独り言のように言う。
「こんな安月給の教師でなく、もっと華々しい街道を歩くはずだった」
表情が、もう人間味を失っている。
「俺の時は、就職氷河期でコネ入社が多かった。大して才覚のない、明らかに俺よりも劣っている奴が一流企業に入れて、俺は落とされた」
闇が、原田を包んでいる様に見えた。漫画とかでよく見る様に。実際、そんなものが見えるのか。
「俺は、こんな所で終わる人間ではない!」
教職が、そんなに底辺の部類なのだろうか?
「ブランド品で身を固め、人の上に立ち、人を使う部類の人間だ。なのになぜ愚鈍な中学生を相手にしなければならない?!」
愚鈍。
「コネを作るために、業者と癒着して何が悪い!」
虚栄心と劣等感、僻み。自意識過剰から来る、蔑み。
そんな事で。
そんな事で、綾香の未来を奪ったんだ!
「人殺し!」
すると原田は私に飛び掛かり、慣れないヒールを履いている私はバランスを崩し、倒れ込んだ。そして馬乗りになり、私の首を絞めだした。
息が出来ない、誰か、助けて、誰か……。
意識が遠のいていく感覚の中で、誰かの悲鳴を聞いた。
気が付くと私は咳き込んでいて、原田は何人かの男の人に取り押さえられていた。
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