帰省

7/12
前へ
/19ページ
次へ
 家に無事に帰りつき、車をバックしてエンジンを切った。  ルームミラーにぶら下がったくまのキーホルダー、お母さんこんなのぶら下げてんだ。  クマのタオルを首にかけた綾香を思い出す。  今思うと、綾香はキャラ物が好きだったのだろう、そう思うと普通の中学生だ。  そう、普通の女の子だったのだろう。  そんな事を考えながら、車を降りた。  するとそこに、中年の女性が立っていた。  誰だか認識するのに、少々時間が掛かってしまった。  買い物袋が重く感じる。 「こんにちは」 「こんにちは」  声のトーンが下がる。 「おひさしぶりね」  返事をしなかった。 「明後日、成人式ね」  下を向いた。 「うちの子も、出てたらどんなだったかしら」  二枚しか入ってない服を持っている手。掴んでいるのが苦しい、肩にかけたバックがめり込みそうだ。責めているようにも取れる言い方に、また重力がかかった気がした。 「……知ってる事は、全て話しました」  そう、知ってる事は、すべて警察に話した。 「悪かったとは、思ってます。一人で行かせた事も、何もかも……」  そう、悪かったとは思っている。  一人で行かせた事、マキに歯向かわなかった事。 「失礼します」  振り返らず、逃げる様に家に入った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加