場面四 わだつみ(三)

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場面四 わだつみ(三)

 抱きたいとも抱かれたいとも思わない。  そう、普段は。  枝吉は口付けに応えながら、島の羽織を脱がせ、帯を解いた。  そして――― 「こ………こらっ!」  袴の上からするりと撫でられて、思わず島は真っ赤になって唇を離した。 「わさん………!」 「よか具合じゃ」 「よ、よかっ………!?」  わわっ!  いきなり足を掬われ、乱暴に押し倒された。固い床に背をしたたかにぶつけ、抗議するいとまもなく、袴紐を解かれ、一気に引きずり下ろされる。 「ち………ちかっと待て!」 「言うたはずじゃ。もう止まらんと」  馬乗りになった枝吉は島の胸元に手をかけ、襦袢ごと一気に開いた。帯も袴紐も解かれているから、ほとんど下帯一枚の間抜けな裸体をさらす羽目になる。同時に膝をぐいぐいと押しつけられ、島は短い声を上げた。 「あっ………ああっ………!」  混乱する。この男が島のなすがままに大人しくしているはずはないし、大体、男を抱くという発想のない島は、それはそれで困ってしまうのだが―――かといって、そんな簡単に頭は切り替わらない。先刻までのしおらしさは一体どこへ消えうせたのだ。 「せっ………世徳」 「大人しゅう任せておくのも一興かとは思うたばってん」  枝吉は強引に島の身体をうつぶせにし、後ろから覆い被さってきた。 「おいも限界じゃ」  何とも恐ろしい言葉に「えっ」と思う余裕すらなく、下帯が解かれ、手が、直に昂ぶりに触れる。島は息を呑んだ。 「………っ! 世徳………!」 「誰かとしたか」 「はあっ!?」  既にぬるついているそれをいじられて、唇を噛みしめた。が、それもすぐにほどけて切羽詰まった声が上がってしまう。 「や、あっ………!」  目眩がする。だがその快感に溺れる間もなく、濡れた指が、奥まった場所に押しつけられ、ぐい、と突き入れられた。 「痛っ………!」 「こん一年、誰かに許したか」 「あほうっ!」  言うに事欠いて、何と言うことを訊くか! 「そがん訳あっ………っあ………!」  枝吉は、容赦なく指を増やしてくる。島は拳を握りしめた。  正直、痛いし怖い。  後孔をいじられるのは、一年前のあの時以来だ。  あの時も強引ではあったが、枝吉にはまだ余裕のようなものがあった。愛撫どころか口淫までされたし―――もっとも、手首を縛られていたのだが―――、島の反応を楽しむようなところがあった。  今の枝吉には、それが全くない。 「団にょ」 「………んっ………あ………!」  緊張と脈動で、こめかみがピリピリする。自身を弄られる快楽と、容赦なく後孔を犯される苦痛と恐怖で何も考えられない。 「力を抜け」 「む、無茶………言っ………! うあっ………!」  命令する口調に、無茶苦茶を言うなと、必死にかぶりを振った。 「抜かんと、どがんなっか知らんぞ」  身の内をうごめいていた指が引き抜かれ、腰をぐいと掴まれる。指とは違うものが押しつけられたのを感じた刹那、ほとんど本能的な恐怖に襲われて、島は反射的に前へ逃げようとした。だが、腰を掴む友の手は緩まない。 「世徳っ!」  もう、なりふり構っている余裕などない。泣きわめかんばかりの勢いで友の名を叫んだ。 「待てて! やめろて言うとっとやなか! ちかっと待て!」  必死の懇願に、しかし、枝吉は聞く耳を持たなかった。  棍棒を容赦なく振り下ろすかのような、無慈悲なほどの勢いで。  友が、この身を裂いた。 「あ、ああああっ!」  絶叫、した。  何の躊躇も容赦もない。一気に突き入れられた。視界が朱壺をぶちまけたごとく真っ赤に染まる。  胃を下から突き上げられる感覚に、吐き気さえ覚えた。犬のように口を開き、浅い呼吸を繰り返す。喉が、うめきとも呼吸音ともつかぬ嗄れた音をたてる。  身体を支えていられず、島は両腕に顔を埋めて床に突っ伏した。顔がぐしょぐしょに濡れている。涎なのか汗なのか、それとも涙なのかも判らない。  世徳………!  突き上げられ、揺さぶられるたびに、口からかすかに洩れる呻きを、どこか他人のもののように島は聞いた。半分意識をどこかへ飛ばしていたのかもしれない。  身の内で友が達して、身体が離れたとき、ああ、終わったのだ、ということ以外何も考えられなかった。島はその場に崩れた。
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