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真梨子じゃなくて瑠璃子
新しい彼女、瑠璃子との間には、合言葉がある。
「真梨子と言えば?」
「瑠璃子。もう間違えないから、勘弁してよ」
僕は困り顔で笑いながら、瑠璃子に言った。
瑠璃子に出会ったとき、僕は元カノ真梨子との思い出に生きていた。「若い身空で、まぁー」と、ばばくさく驚いた瑠璃子に、なんとなく心ほだされて、いつの間にか、周りからカップル扱いされる仲になって、はや1年だ。
僕はアラサーで、瑠璃子はもうじき二十歳とはいえ、まだ十代だ。話題の違い、感覚の違い、さまざまな違いが二人の間にはあり、それがまた刺激的だった。瑠璃子も同じことを言っており、僕らははたから言われる以上に仲がよかった。
「アラサーはしょーがないなぁー」
「十代にはかなわないなぁー」
そんなノリで、楽しくやっていた。
ただ、一度だけ、瑠璃子を怒らせてしまったことがある。知り合ってまもない頃、何気なく彼女を呼んだとき、うっかり『真梨子』と言ってしまったのだ。
瑠璃子は助け船を出してくれた。
「今後、抜き打ちで、『真梨子と言えば?』と訊きます。あなたは、『瑠璃子』と応えてください」
その合言葉は今も続けられている。うっかり「真……」と出そうになるたび、すぐさま瑠璃子の名前が出るようになった。
だから、もう抜き打ち合言葉は必要ないはずなのだが、瑠璃子はやめない。ゲーム感覚なのだろう、と、僕は思っていた。
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