福引

1/1
118人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

福引

父ちゃんと母ちゃんに連れられ、車で家電量販店に来た。エアコンの調子が悪く、新しい物に買い換えるらしい。 七歳の妹と三歳の弟は嬉しそうだが、僕は乗り気じゃなかった。小学生も高学年になるとそんなものだ。休みの日くらい、家でのんびりゲームをしていたいと思う。だが、そういう訳にはいかない。 「お兄ちゃん、こっちに来て。このテレビ、すっごく大きいよ」 「にーちゃ、にーちゃ、おっきいよ」 「触るなよ、売り物なんだから」 妹と弟の面倒を見るのが僕の役目。イタズラをしないように見張っていると、父ちゃんが笑顔で戻ってくる。 「福引券を三枚貰ったぞ」 どうやら、無事に買い物を終えたらしい。僕たちは一枚ずつ福引券を渡され、レジの横にある抽選会場へ向かった。 先ずは三歳の弟に引かせる。 結果は五等で、駄菓子の詰め合わせ。下手に良い景品を当てるより嬉しそうだ。 次に妹が引く。 結果は五等で、やはり駄菓子。とても不満そうだが、まあそんなものだろう。 だが、僕は違う。普段の生活では運が悪く、ろくな目にあわない。でも、くじ運だけはいいんだ。 狙うは一等のゲームソフト。気合を入れ、願いを込めてくじを引く。すると…… 「おめでとうございます! 特賞の自転車が当たりました!」 …… …… 「えっ?」 父ちゃんと母ちゃんが後ろでヒソヒソと話している。 「ママチャリだ。家に送る場合は送料がかかるらしいぞ」 「車に載せられないしね。どうする?」 「ママチャリは要らないけど、辞退するのは勿体無いな」 そして、父ちゃんが僕の肩に手を置いた。 「お前が当てたんだから、頑張れよ」 …… …… 「えっ?」 こうして、僕だけがママチャリで家に帰らされる。その間ずっと、くじ運の良さを呪っていた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!