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第一章
「あんたを見てると、イライラする」
真っ直ぐにこちらを見る、睨みつけるような視線が、ずっと忘れられなかった。
***
碓氷透の二十七年間の人生は、小川を流れる葉に似ている。そこに石や岩があれば、自分の意思とは関係なく留まり、また進むときもその流れに身を委ねる。誰とも波風を立てず、平和で穏便に、自分がこうしたいと心で思っていても、他の誰かがああしたいと言えば、そっちでいいと思ってきた。厄介事だとしても、面倒なことの押しつけだとしても、頼ってくれる誰かが楽になるのなら、それでいい。否定して、嫌われるのが怖かった。そんな、受け身で存在感の薄い、透明人間のような自分。それでもずっと、これでいいと信じて生きてきたのだ。
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