第一章

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透はまず外部の調査会社に韮崎の調査を依頼した。リスク対策チームでは、問題を抱えた可能性のある社員が浮上した際、こういった調査会社に依頼することは珍しくない。今回は、信憑性が疑わしい怪文書が届いただけなので、簡単な身辺調査のみを依頼し、社内で調べられることは、他の業務の合間に少しずつ調べていくことにした。 小部屋内の戸締りをして、ほとんど人がいなくなった本社を出ると、時刻は二十二時を過ぎていた。会社から家までは電車を一度乗り継いで三十分。夕飯は、家の最寄り駅の遅くまで開いている定食屋で適当に済ませた。駅から歩いて五分ほどの自宅は、一Kの単身用マンションだ。 朝、ばたばたと出勤したまま、雑然としていた室内を少し片づけ、窓を開けて換気をする。周りにも似たような低層マンションが建っていて、眺望は微妙だ。 腰を下ろすと動けなくなりそうで、さっさとシャワーを浴びて、ベッドに潜り込む。家には寝に帰るだけだ。大学生の頃はいくらかやっていたが、社会人になってからは自炊もほとんどしなくなった。 朝から晩までよく働いた体は休息を求めていたが、頭がまだ切り替えられない。明日はまずこの業務からやろう、あれをやらなくてはいけない、室長にあの件を確認しなければ……と次々に段取りをしようとするため、なかなか眠くならない。どうにか無理やり思考をシャットダウンして、眠りについた。
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