第二章

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「透さん……? 聞こえてます?」 「あ……ああ、ごめん。なんだっけ?」 ぼんやり考え事をしていて、伊沢の言葉が聞こえていなかったらしい。今度こそ聞き逃さないよう、伊沢の方に顔を向けると、いつもの怖い顔をした伊沢と目が合った。透と視線が合っても、珍しくその表情を隠さない。 「透さんがこの一ヶ月で調べた報告書を読んだんですけど……、この量一人で調べたんですか?」 「え……? う、うん……」 「………………そう、ですか」 違和感のある間。先ほどの表情と関係があるのだろうか。この仕事は透が担当していたものだし、室長にも提出した書類だ。何も問題はないはずだが、伊沢の反応が妙に気になった。 「明日の午後には、またM支店の書類が届くんですよね?」 透はこくりと頷いた。韮崎が調査対象になっていることは社内外に極秘だ。監査室経由でM支店の過去一年分のツアー台帳や経理関連の書類を取り寄せ、一つ一つ慎重に調べていく。砂場の砂から、あるのかもわからない一粒の小石を探し出すような、果てしない作業だ。 まだ何か言いたげな伊沢には気が付かず、透はまた先ほどまでやっていた仕事を再開した。
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