第二章

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「こんな仕事のやり方してたら、体壊しますよ」 本社にいる後輩に何かを注意するときも、優しく叱咤する伊沢が、透にはこんな風に怒りを露わにする。 ――僕のことを嫌ってるんだから、仕方ないか……。 伊沢のようには仕事ができないとしても、自分なりに精一杯やっているつもりなのだ。できる人間にはできない人間の気持ちがわからないのかもしれない。そと思うと、少しだけ腹が立った。 「僕は、伊沢みたいに要領がよくないから」 「そうじゃない……っ!」  伊沢の大きな声に、びくりと透の体が揺れる。透がぼやくように放った言い訳が、さらに伊沢の逆鱗に触れてしまったらしい。端正な顔立ちの、怒気を含んだ真顔には凄みがあり、透は怯えた表情で伊沢を見上げた。その瞬間、透の顔を見た伊沢の表情が、当惑の色を見せる。 「……っ、取り乱してすみません。続きは明日やりましょう。今日はもう帰って休んでください。俺も帰りますから」  さっと仮面をつけたかのように、先ほどの怒りや戸惑いの表情は消え、いつもの伊沢の顔に戻っていた。  
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