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「迷惑かけてごめん……」
「迷惑だと思うなら、睡眠時間はきちんと確保して、昼食休憩もしっかり食べて休んで、それから仕事してください」
「ごめん……」
俯いた透に、伊沢が近づいてくる。そして、額に大きな手が重ねられた。
「熱……、まだありますね」
そう呟くと、何も言わずに部屋から出て行ってしまう。
取り残された透は、ぼんやりと辺りを見渡した。天井まで伸びる大きくて開放的な窓からは美しい夜景が広がり、広々とした室内にはクイーンサイズの大きなベッドと、書斎机のみが置かれ、一見ホテルの一室と見違えるほど生活感のない空間だった。
――ここが……。
横井麻美子の案件で話題になった伊沢のマンションか、と透はベッドを降りて窓に近づいた。途中、ふいに目に留まったパソコンの画面に、透は目を瞠る。
「これ……」
「寝てないとだめですよ」
後ろから聞こえた声に、びくりと体が揺れる。
「ごめん、勝手に……。でも、これって」
「持ち帰ってできることなんて、あまりないですけどね。これは俺がやっておきます。そうじゃないと、透さんちゃんと休もうとしないので」
社用パソコン画面には、韮崎の送受信したメールが映し出されていた。普段から残業時間も少なく、持ち帰って仕事をすることなど絶対にない伊沢が、パソコンを持ち帰ってきたのは、透のためだった。韮崎の過去のメールのチェックは、透がやると言っていたのだ。
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