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伊沢は、立ち上がったついでに追加のつまみと、もう一缶ビールを手にして戻ってきた。
「さっきの話ですけど……」という声に、透は勢いよく振り向いた。
「あの二人は、不倫関係にあると思います」
「……男同士なのに⁉」
「おかしいですか?」
自分にそういう偏見はないが、まさか韮崎が……、と言う衝撃で言葉を失った。透にも思うとこはあったが、そう断定されると動揺してしまう。
「居酒屋を出てからの二人は、目的地がはっきりした足取りでした。居酒屋を出た時点では、まだ電車は動いていたので、終電を逃したからという理由でホテルに泊まるわけではないと仮定すると、可能性は高いと思います。それに、居酒屋での話しぶり、まるで恋人同士みたいでした。普通の同僚とは思えない」
「そんな……」
「韮崎課長、むかしから男女問わず手が早いって噂、結構有名ですけど」
「え!? そうなの!?」
「透さんだって、韮崎課長とよくベタベタしてたじゃないですか」
「え? あれは……っ」
韮崎の話から突然矛先が自分になり、混乱する。
――あれは、そういうことだったのだろうか……?
こういうことに、敏感なタイプではないが鈍感でもないと自負している。韮崎に迫られたことや、恋愛感情を持たれていると感じたことは一度もない。伊沢の思い違いだろう。
スマホの待ち受けは娘とのツーショット写真で、いつも「可愛いだろ!」と自慢していた。家族を大事にしている人だと思っていた。ただ韮崎は、他人とパーソナルスペースが近いタイプなのだと思っていたのだ。
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