第三章

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「覚えてたんですか……」 「うん。ずっと、忘れられなかった……」 ――伊沢のことが。 今ならわかる。あの時、いや伊沢が新入社員としてS支店に配属された時から、透は伊沢のことが気になっていた。 「そうですよ。俺は……むかしから、透さんを見てるとイライラするんです」  久しぶりに見る、伊沢の透を睨んだ表情。ずっとあの言葉の意味を考えていた。それがようやくわかった気がする。 伊沢は、透が何も言えない小心者だと、あの頃から知っていたのだ。その上でイライラすると言ったのだ。 最近になって伊沢が優しくなったのも、仕事の配分が下手な透に足を引っ張られないようにフォローしていただけなのだろう。 ――別に、仲良くなったわけじゃなかった……。 伊沢は、周囲に対していつも平等に接している。そして、誰かに特別な興味を持ったところを見たことがない。それをよく知っていたのに、勝手に親しい存在になった気になっていた。そんな傲慢な考えを持った自分に呆れる。
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