第三章

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――伊沢は、昔も今も変わらず、僕のことが嫌いなんだ……。 目頭が熱くなり、泣きそうになる。黙り込む透に、伊沢の表情も曇る。 「俺が近寄ったら……」 さらにぐっと、伊沢の顔が近づく。 「え……?」 「怯えた顔するくせに」 キスができそうなほど近づいた顔に動揺し、思わず顔を背ける。 「できるじゃないですか。そうやって、拒絶すればいいんですよ」 吐き捨てるようにそう告げると、ぱっと退いて歩いて行ってしまう。重みが消えたソファーが揺れ、目の前が明るくなった。 「シャワー浴びてきます」  そう言いながら、一度も振り返らず、廊下の先に消えた。 「ちが……う……」 閉まった扉に投げかけた言葉は、空気中に溶けて消える。 ――いやじゃ、なかった……。 韮崎には触れられたくないと思いながら我慢していた。しかし伊沢には、触れてほしいと願ってしまった。キスをしたいと思ってしまった。その動揺で、思わず顔を背けてしまったのだ。
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