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――僕は、伊沢のことが……好きなんだ。
男同士だから、ありえないと決めつけて、自分の気持ちに蓋をしていた。素直になれなった。男とか女とか関係なくシンプルに、この人が好きなのだと訴える自分の心を、認めてあげられなかった。
一挙手一投足が気になるのも、誰かに笑いかけているのを見て心がざわめくのも、全て伊沢のことが好きだったからなのだ。
「…………っく」
ずっと無意識に抑えていた気持ちが溢れ出る。想いを自覚した途端、伊沢に嫌われていることを再確認してしまった。
ぽろりと涙が零れる。
――よりによって、なんで伊沢なんだ……。
恋愛経験は多い方ではないが、今までそれなりに人を好きになってきたはずだった。そのどれよりも強い気持ちが心を支配する。
今なら、伊沢を好きになりすぎて常識の範囲を超えてしまった人たちのことが、理解できる気がした。
しかし、その経緯を見てきた透だからこそ、この気持ちは心の中に納めておかなくてはいけないことを知っている。同性の同僚、恋愛対象の土俵にすらのっていない。
――それ以前に、僕は嫌われてるんだから……。
今はもう、何も考えたくない。透は深いため息をつくと、心地の良いソファーに沈み込んだ。
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