第四章

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第四章

何も進展がないまま半月が過ぎた頃、過去ばかり調べていた透と伊沢は方針を変え、今後予定しているツアーで韮崎と壮馬の両名が関わっているものを洗い出し始めた。すると、韮崎が担当し、壮馬が手配をしているツアーが見つかったのだ。それは出発が間際に迫っていた。過去から証拠が掴めないのなら、これから起こると予測される不正を掴むしかない。 それから数日後、透と伊沢は、中国の特別行政区、マカオにいた。七月中旬のマカオは、日本とあまり変わらない夏の気候で、湿度が高く蒸し暑い。  一九九九年までポルトガル統治下にあり、その後、中国に返還されたマカオは、中国とポルトガルの文化が融合した異国情緒あふれる都市だ。 半島の至る所に、統治時代に建てられた歴史的建造物が多数残っている。パステルカラーで美しい教会や修道院が立ち並ぶエリアは、まるで中世南欧のような趣のある光景だ。そしてコロニアル様式の家並みを彩るのは、白地のタイルに青色で模様が描かれたアズレージョと呼ばれるタイル。緻密で美しい青の芸術は、見る物を虜にする。 またマカオは、東洋のラスベガスと呼ばれる、カジノ都市でもある。超大型・豪華絢爛なリゾートホテルが乱立する、眠らない街なのだ。 歴史散策にも、エンターテインメントを楽しむにも適した魅力的な場所だが、今回は悠長に観光などしている暇はない。空港からすぐにタクシーに乗り、韮崎のいるホテルを目指した。
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