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できることなら、もっとテトと触れ合いたいし、石と思えないほど柔らかそうに見える毛並みを全身くまなく磨き上げて、毎晩鑑賞会を開きたいぐらいだった。
ミハルに言われても徹夜での仕事を止める気にはなれないが、テトが一緒にベッドに入ってくれると言うなら喜んで寝るのにと思ってしまう。
テトを胸に抱き、視界をまどろむ虹色でいっぱいにしながら眠りについたら、どんなに幸せな夢が見られるだろう、などと考えていると、
「なーん?」
テトから抗議の声が上がった。
邪な考えが伝わってしまったのかと一瞬身構えたが、そうではないらしい。
ちょちょい、と前足で軽く触ってもピクリとも動かない守護像がどうやらお気に召さないようだ。
「ちょっと待ってて」
シオはテトの頭を一撫でし、机の横にあるチェストからインク瓶と羽根ペンを取り出した。
台座と蓋が真鍮製で、卵形の小ぶりなガラス製のインク瓶。
その半分ほどを満たしている液体は、光の加減で赤にも青にも緑にも見える。
虹インクと呼ばれる守護像職人に代々伝わる物だ。羽根ペンも普通とは異なり、ペン先に細かな彫り物が施され、切っ先はナイフのように鋭い特別仕様となっている。
これらの道具は守護像職人にとって無くてはならないものだ。これがないと、守護像を眠りから目覚めさせることはできない。
シオはインク瓶の蓋を開けると、羽根ペンの先をインクに浸した。
反対の手でリス型守護像を持ち、彫り込みの少ない腹面を上にして、手を固定させる。
十分インクを吸い上げたのを確かめると、羽根ペンを瓶から引き上げた。
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