413人が本棚に入れています
本棚に追加
「テト、動いちゃダメだからね」
手元をのぞき込んでくるテトに念を押す。
テトは、少しだけシオから距離を取った。
シオは、すぅ、と息を吸うと、守護像に意識を集中させた。リス型守護像の顎の下、胸辺りに狙いを定める。
そして一息に、自分の名前を刻み込んだ。
虹色のなめらかな線が描かれる。
シオは羽根ペンをインク瓶に差し、目をつぶっている守護像をそっと両手に乗せた。
何も変化は起こらない。
シオはまだ乾ききっていない、てらてらと光る自分の名前に、ふぅ、と息を吹きかけた。
次の瞬間。
リス型の守護像の内側から温かい風が吹き上げた。身体の色と同じ橙色の光が溢れ出し、守護像の全身を包み込む。
淡く発光していたリス型の守護像だったが、やがて光は収まり、室内に元の静けさが戻った。
「あれ?おかしいな……?」
すぐに現れるはずの反応がない。
テトも、おや?というように近寄ってきた。
すると、リス型守護像のまぶたがわずかに動いた。ピクピクと痙攣した後、薄く何度か瞬きを繰り返し、パチリと目を開ける。クリッとした瞳でシオを見ると、
「ちぃ?」
守護像は小さく鳴き、小首を傾げた。
シオはホッと胸をなで下ろす。
守護像を起こすのに失敗したかと思った。
守護像は、ただ彫り出せば目覚める、というわけではない
守護像職人が特殊なインクとペンで像に名を刻むことで眠りから覚ますことができるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!