第1話 1.出会い

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 それから十年後。    親方の工房がある町から馬で二週間ほどの距離にある小さな町、カペロ。    白い壁に、薄い灰色の石を円錐形に積み上げた屋根が特徴的な建物が立ち並んでいる。  この建物は部屋一つに屋根一つという構造のため、一軒につきいくつもの屋根を有することになる。結果、この町は遠くから見ると灰色のとんがり帽子が並んでいるように見えた。    そんなとんがり帽子の家のとある一室。    壁際にずらりと並んだ棚には、奇石が綺麗に並んでいる。  部屋の真ん中の作業机には、石を削るための道具が乱雑に置かれ、窓際の机の前には人が座っていた。    大きなアーチ窓から差し込む淡い光の中で、シオは奇石を削っていた。  親方と出会った頃は肩ほどしかなかった灰色の癖っ毛も、いつの間にか腰に届くほどになっている。椅子に座って背中を丸め、前屈みになって削るので髪が前に落ちてくる。  しかし、シオは気にすることなく橙色に輝く奇石に向かう。  おおよその形は削り終わり、常人にも何の守護像なのか判別できるほどになっている。    今回、奇石に眠っていたのはリスのような姿をしたモノだった。    普通のリスと違うのは、本来身体に入っている縞模様が蔓草模様になっていて、しかも、所々立体の小さな花が咲いているところだ。  蔓は複雑に絡み合っている上、とても線が細いので仕上げには時間がかかりそうだった。 「ふぅ」  吐息が白く朝日に溶けた。冬は明け方が一番冷え込む。  シオはズズッと鼻をすすり、半分ずり落ちていたケープを肩に掛け直した。鼻の頭とノミを握っている指先が赤くなっている。 (暖炉に火は入れたはず・・・)    おかしいな、と思い暖炉を見ると、木の燃えかすしか残っていなかった。  どうりで寒いわけだ。 「っしゅん」    小さなくしゃみをしたシオはノミを机に置いた。  親方の工房を巣立ってそろそろ一年になるが、奇石を削っていると時間を忘れてしまうのは変わっていなかった。  シオとしては仕事に集中することは良いことだと思っているのだが、 「・・・また小言を言われそう」 鼻をすすりながらちょっと顔をしかめる。    親方の工房にいたときには徹夜してもそこまで作業に口出しをされなかった気がするのだが、近頃やたらと口うるさい気がする。 ―コンコン    控え目にドアがノックされた。嫌な予感がする。返事をする前にドアが開けられた。
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