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(美味しい)
口元がほころぶ。
蜜かぼちゃと人参もろこしのスープはシオの好物だ。
少し焼き目の付いた白パンに手を伸ばし、スープに浸しながら食べる。
テトの寝息が聞こえ始め、朝のちょっとした幸福感を噛みしめていたのに、
「いくら仕事が好きだからって言っても倒れたら元も子もないんだからね?ちゃんと分かってるの?」
追い説教に一気に気分が落とされた。
向かいの席に腰を下ろしたミハルに睨まれ、食事の手を止める。
「分かってる。だからお説教なんかしてないで、ミハルも早く食べたら?冷めちゃうよ」
せっかくの美味しい朝食も、お小言が続くと不味くなりそうだ。
ミハルの口を食べることに使わせようとしたのだが、どうやら逆効果だったらしい。
「僕もお説教したくてしてるわけじゃないんだからね?何度も言われたくないならシオも徹夜はやめたら?そもそもシオはー」
スプーンを指揮棒のように振りながらガミガミ言うミハルに辟易する。隣で寝ていたテトもわずらわしそうに耳を伏せた。
シオがミハルから顔を背けたその時、木の扉がわずかに開いていることに気がついた。
「……いるなら入ってくればいいのに」
眉をひそめると、入ってきたドアと対極に位置する木の扉がゆっくりと開かれた。
「タイミングを見計らっていたんですよ」
やれやれ、とため息交じりに入ってきたのは艶やかな黒髪をうなじで緩く束ねた若者だった。
鼻筋の通った端整な顔立ちに銀縁眼鏡がよく似合っている。
「クロードさん!いつからいたんですか?」
ミハルも少し驚いた様子でお説教の言葉を止めた。
「君が小言を並べ始めた辺りからです」
小脇に抱えた手紙の束をテーブルへ無造作に置き、椅子に座って足を組む。
そんな何気ない動作にも、そこはかとなく品が漂うこの男―クロードは、シオの工房の経営を担当している。
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