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通常、独り立ちできるほどの腕を持った職人であれば、親方のようにパトロンとの仲立ちから、客への売り込み、売り上げの勘定まで一手に担う。
しかし、腕はピカイチでも他がからっきしなのがシオである。
石にかまけて経営もろくに考えず、石に埋もれて息絶えるシオの姿が目に浮かんだ親方から、巣立つ条件として出されたのがクロードを経営者にすることだった。
豪商一族の端くれらしく、顔も広く、商才もあるクロードのおかげで、シオの工房は1年ほど経った今でも、小さいながらも潰れずにいる。
「しかしよくもまぁ、君たちも飽きませんねぇ。昨日も一昨日も同じ様な会話をしていましたよ」
くぃ、と銀縁眼鏡を押し上げて呆れた顔をされるが、聞いていたんならさっさとと入ってきて小言を止めて欲しかった。
「クロードさんからも言ってくれませんか。僕が言ったところで全く聞いてくれないので」
告げ口をしながらクロードのためにコーヒーを入れるミハルに、シオは閉口する。
「そうですねぇ」
クロードがこちらを値踏みをするように見てきた。
(何か文句でも?)
シオはクロードを睨め付けた。町娘ならその視線を浴びただけで耳まで赤くなるのだろうが、生憎、シオはクロードにこれっぽっちも興味がない。
それどころか、あまり好ましく思っていなかった。
「職人は今のところシオ君しかいませんからね。ちゃんと仕事をしているのなら、文句は言いませんよ」
クロードの言葉にミハルは気落ちしているようだが、シオはその言葉に引っかかった。
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