第1話 1.出会い

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第1話 1.出会い

 少女が、背伸びをしてショウウインドウの中をのぞき込んでいる。  肩までのふわふわとした灰色の髪が顔にかかるのも気にせず、紫がかった瞳で一点を見つめている。  視線の先には、青や赤、緑がかった水晶の原石のようなゴツゴツとした石が行儀良く並んでいた。 ―カラン  ドアベルの音と同時にショウウインドウの横にあるドアが外へと開いた。    ふぅ、と伸びをしながら出てきたのは、この店の親方だ。茶色いオーバーオール姿のいかにも職人といった風貌のオヤジである。鼻の下の口ひげと眉毛は立派だが、本来毛があるはずの部分はつるんとしていていっそ清々しい。    凝りをほぐすように肩を回して、ふ、と視界の端に少女を捉えた。普段、この店に子どもが寄りつくことはない。 「何見てんだ?お嬢ちゃん」    窓に額をこすりつけながら中を覗くその子に思わず声を掛ける。    しかし少女は親方には目を向けず、スッと視線の先にある青い石を指さす。 「中、蝶がいる」    それを聞いて、親方はちょっと驚いたような顔をした。 (こいつぁもしかして…)    鼻の下に蓄えられた立派な髭を撫でながら思案する。子どもなんて、お客の連れでも店内に入れることはないのだが、 「おい」 こっちへ来い、と少女を手招いた親方は、窓から顔を剥がした少女の顔を見て苦笑した。額がほんのり赤くなっている。    しかし本人は気にしていないのか気がついていないのか、石を見ていたときと変わらぬ無表情さで親方の元へやって来た。 「手ぇ出しな」    店内に招き入れた少女にそう言うと、少女は素直に両手を差し出してきた。親方は少女が熱心に見ていた青い石をショウウインドウの棚から取ると少女の手のひらに載せた。大人の拳一個分ほどの大きさだ。    次の瞬間、少女の顔に驚きの色が広がる。 「…あったかい」    呆然とつぶやく少女に、親方はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。 「おもしれぇだろ?こいつぁ、奇石って言ってな、生きてるんだぜ?」    親方の言葉を聞いているのかいないのか、少女は親方の言葉に反応を示さない。  しばらく手のひらに乗せられた奇石をジッと見つめていたかと思うと、不意に顔を上げた。
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