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2019年春、そろそろTに連絡しようと思っていた矢先、向こうから連絡が来た。
『引っ越しました! よかったら遊びに来て!』
我々が生まれ育ったのは、東京都内某所。
と言っても、あまり都会の雰囲気はなく、よっぽど山梨や相模湖の方が親近感を覚えるような地域である。
Tは高校卒業後、浪人期間を経て美大に通い、卒業後は結局美術系の仕事にはつかず、普通に会社員をしていた。
しかし、どうも街での社会人暮らしは、彼女には向かなかったようである。
『田舎が足りない! 私にもっと田舎を!』と言って、昨年から福島県内の某村へと移住してしまったのだ。
今、地域活性化や若い人に移住してもらうため、自治体が制度を組んで、住居、仕事のあっせんをしてくれるところが増えているらしい。
ある村のそれに応募して、受かったとのこと。
「私、4月から福島に住むことになったよ」
「え」
吉祥寺のビヤホールでいきなりカミングアウトされたときは驚いたが。
彼女らしいというか、そのエネルギーに感嘆するばかりだが、何より向こうに住んでからのTがそれはそれは楽しそうで、こちらも嬉しい限りだ。
実は去年の夏にも、遊びに行った。
しかしそのときは制度上、他の移住者(全員女子)とのシェアハウス状態で泊まるのは難しかった。
私が会津若松市内のホテルに泊まり、朝から車で村に行き、お昼を一緒に食べてすぐ帰ってしまったので、少ししかいられなかった。
1年経つと、次の移住者のためにそのシェアハウスは開けなければならない。
彼女が引っ越したというのは、シェアハウスから出て、借家に移ったという連絡だった。
決まった、行こうではないか。
昨年行ったときに持たせてくれた、きゅうりとじゃがいもとトマトと湧き水が忘れられない。
美味しい野菜とご飯が私を待っている。
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