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《詳細》
⑧成長タクシー
朝バイキングで美味しいご飯をたっぷり食べた我々は(食べ過ぎたような気がしないでもないが)、ホテルを出発し、車で十和田湖に向かっていた。
少し国道を走り、途中道を折れる。
ふと、前方に走っているタクシーに注目した。
タクシーというのは、大抵地元に根付いているもので、東京ではお目にかかれないご当地ならではのタクシー会社が見つかるのだが――。
「成長タクシー?」
私は声に出した。
いや、見間違ってはいない。確かに『成長タクシー』と書いてある。
「前のタクシー、『成長タクシー』って書いてあるんだけど」
後部座席の母に話を振った。
「成長タクシー?」
「うん……しかも料金500円からだって、安っ、ワンコインじゃん」
「やっぱ東京とは違うよねえ」
「ねえ、成長タクシーって何が成長するの?」
「運転手?」
「タクシー?」
「車が成長するの?」
たまの息抜き、適当に話を広げるものだから、まあおかしな方向に進んでいく。
赤信号に遭遇し、車がスピードを落とした。
ピタッとタクシーのすぐ後ろにつけた。
「ん?」
見ると、小さな文字で『なりちょう』と書かれていた。
「違う、『せいちょう』じゃなくて『なりちょう』だって!」
「なあんだ」
「成長はしなかったか」
「おかしいと思ったよ」
勝手に勘違いしておいて、勝手にやんややんやと騒いだ。
だんだん車の数が減っていく。
成長タクシーが角を折れて、我々の前から去って行った。
道が上り坂になった。山を上っているのである。
さあ、ここから1時間半余り、信号はなし。
まさに野を越え山を越え、雨上がりの霧の中、山道を行くのである。
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