8 暗闇の戦い

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「これでもう大丈夫ね」  ミレーが言った。彼女はその光る体で、ドラコヌスのやけどを治し終えたところだった。 「ありがとう。きみも無事で良かった」  ドラコヌスが言った。その時、バッグが小型宇宙船のドアから出てきて、 「警察に連絡したナノデス。十分ほどでここに着くみたいナノデス」 と言った。彼は電撃のせいで電源が切れただけだったらしく、クロウがスイッチを押したところ、ふたたび変わりなく動けるようになったのだった。 「さて、と……」  クロウが言った。風が強さと冷たさを増したようだ。雲が夜空の月のすべてをかくし、大木の黒い葉が、ざわざわと音を立てた。  ジャンとジャックはワイヤーでしばられ、その大木の幹につながれていた。ジャックがクロウに向かってさけんだ。 「おい、クロウ……! 見のがしてくれよ。たのむ! お前はもう自由にしていいから。追いかけたり捕まえたりしねえからよ!」  クロウは彼らに近づくと、きっぱりと言った。 「だめだ。あんたたちは、ちゃんとやったことを明らかにして、罪をつぐなってもらう」  すると、ジャンが鼻で笑って言った。 「ハッ! 知った風なことを。正義のヒーローのつもり? あんた、わたしたちが、憎いんでしょ?」  クロウは口をつぐんだ。ジャンは目を見開き、ゆがんだ笑みを浮かべて続けた。 「返事しなさいよ、クロウ。なんで答えないのかしら? 憎くてたまらないんでしょう、わたしたちが。なら……、殺しなさいよ……!」  クロウは心臓をつかまれるような思いがした。頭の中をふたたびいやな思いや言葉がぐるぐる回る。ジャックは鼻から息をはき、笑った。クロウは後ろに仲間たちがそっと近づいてきたのが分かったが、ふり返ることができなかった。 「殺しなさいよ! ほら! ブラックシェルの力を使えばかんたんでしょう? ずっと閉じこめて、ばかにして、苦しめてきたのよ? 憎いんでしょう? できないの? やっぱりあんたは何もできないのかしら?」  クロウはジャンをにらみつけ、くちびるをかみしめた。彼は自分が息を荒くしているのに気づき、呼吸を落ち着けようとして、目を閉じた。  まぶたの内側の闇の中で、クロウはとつぜん、理解した気がした。クロウが閉じこめられた、あの黒い殻の中の世界……。あれと同じ真っ黒な殻の中に、ジャンとジャックは、いるのだ。あの、自分と世界のすべてが憎らしい、暗く重苦しい闇の世界に。  クロウは目を開き、後ろをふり返った。バッグとミレーとドラコヌスが、心配そうにこちらを見ている。クロウはほんの少し笑って、それからジャンとジャックに向き直った。 「……ゆるす。ゆるしてやるさ」  そうしてクロウは仲間たちの方にかけ寄っていった。ジャンとジャックは、しばられたままぼうぜんとした後、もだえ苦しむように顔をゆがめた。やがて二人は顔をふせ、それから何も言わなかった。  と、その時、サイレンの音と共に、丘の向こうの空から数台の乗り物が近づいてきた。 「警察? いやに早いな……」  クロウがバッグを見て言った。バッグも首をかしげた。すると、近づきつつある乗り物から、声が聞こえてきた。 「大人しくしなさい。きみたちは不法侵入をおかしている。ここはきみたちのような一般人が、いていい土地ではない!」 「どういう意味かしら? ミレーは分からないわ。クロウなら分かる?」  ミレーがたずねた。クロウは苦笑いをしながら言う。 「ここは金持ちの土地だから逮捕するってさ。みんな、急いで宇宙船に乗って!」  ドラコヌスが言う。 「やれやれ、これがおれたちの運命か」  バッグはうろたえながら言った。 「また逃げなきゃいけないナノデスカ? 二人を捕まえた賞金は? ナノデス!」  クロウは言った。 「また今度だ。それに、逃げるんじゃないさ……」  彼はそこで仲間たちの顔を見ると、少し笑って、こう言った。 「また探しに行くのさ。ニワツキイッコダテを。ぼくたちが、笑って暮らせる所をさ!」  こうして、少年と、どじなロボットと、温かいゆうれいと、ストイックなドラゴンの四人は、小さな宇宙船に乗りこみ、夜空のかなたに向かって飛び立っていった。
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