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05. いざ、婚活へ!
「神崎知佳、二十九歳です。アパレルショップの店員をしています。よろしくお願いします」
かの日、婚活を宣言した知佳であったが、本気になった彼女の動きは早かった。婚活パーティーについて調べ始めるやいなや、口コミやコツ、種類や開催時期、カップル成立率に至るまで徹底的に情報を収集する。興味のある分野について気が済むまで調べてしまうのはオタクの性(さが)と言っても過言ではないだろう。かくして、知佳は都内で定期的に開催されている婚活パーティーに参加するのであった。
今回参加したパーティーは、二十五歳から三十五歳までと知佳とほぼ同世代が対象で、六十名が参加している。男女三名ずつの六名からなる小グループで話をし、三十分ごとにメンバーを変更するというシステムだ。短時間の合コンが繰り返し行われていると考えるとわかりやすいだろう。今はその三巡目、婚活初挑戦の知佳がようやく場の空気に慣れてきたところである。
「へぇ~、だからそんなおしゃれなんだ? すげぇ可愛いね。似合う服わかってるってつーか」
「ありがとうございます。職業柄、普段から見た目には気を遣うようにしているので、褒めていただけて嬉しいです」
「ね、今度俺のこともコーディネートしてくんない? 知佳ちゃんセンスいいし、似合う服見繕ってくれそう!」
「はい。メンズブランドも広く取り扱っているので、ご来店いただいたらきっとお似合いのお洋服が見つかると思いますよ」
「それじゃ営業じゃーん! もしかして知佳ちゃんって天然? ね、皆もそう思わない?」
「あ、ははは……」
(この人、初対面ですごいグイグイくるなぁ……)
知佳が自己紹介を終えた途端、男性側の列の真ん中に座っている男性が身を乗り出して知佳に話しかけた。まだ他の人の自己紹介も残っているというのに、よほど知佳に興味を持ったのだろう。他の女性たちが顔を引きつらせていることなど気にも留めず、知佳だけにニコニコと笑顔を向け話し続けている。男性の独壇場になり場が凍り付きそうになったその時、助け舟を出してくれたのは彼の左隣に座った男性であった。
「コホン、じゃあ次は男の番ですね。僕は荒瀬瑛士(あらせえいじ)、三十三歳。警察官です。こういった場は初めてなので少々緊張していますが、よろしくお願いします!」
緊張していると言う割には落ち着いた様子の瑛士。身長が高く、普段から鍛えているのか筋骨隆々で大柄な体格だが、にこりと微笑む表情からか圧迫感を感じさせず、その堂々とした佇まいからは清潔感と安心感を漂わせている。
「っとー、次は俺だな! 俺は梶谷爽太(かじたにそうた)! 爽やかに太いって書いて爽太ッス。あーでも爽やかさで言うなら悔しいけど瑛士くん、だっけ? 彼の方が上かも! 歳は二十七、広告代理店で営業してます! 合コンなら頻繁にやってるんで、多少は場慣れしてんじゃねぇかな。よろしく!」
早々に知佳に絡んだ爽太。場慣れしていると自称するだけあり、慣れた様子でペラペラと一気に自己紹介を行った。流石に場の空気を読んだのか、知佳だけではなく他全員に向けて話したようだが、最後には知佳の方に笑顔を向けていた。調子のいい男である。
「……えっと、……瑠璃垣俊(るりがきしゅん)。……システムエンジニア、してます。よろしく、お願いします」
「ちょ、俊くん暗いってー! もう少し何かあんだろ!」
「……」
「って、無視かよ!」
最後に自己紹介をした俊。隣の爽太に絡まれても顔色一つ変えずにだんまりを決め込んでいる。彼は前二人と対照的に、背を丸めて顔を下に向けており、声も小さい。分厚い眼鏡も相まって、目元は全く見えない。人と知り合うための場所でこの態度では、相手に自分を知ってもらうのは難しいだろう。明らかに場慣れしていない様子だ。
(人見知りなのかな。何か話題を振った方がいいかも)
昔から人の中心にいることが多く、面倒見の良い知佳。特に親友の響や藍が人見知りな性格であることも相まって、親しくなるまでの間は自身が会話をリードすることが多かった。そのため今回のようにその場に馴染めなさそうにしている人を見ると、つい世話を焼こうとしてしまう。真正面に座っていることもあり、話してみようと気合を入れた。――のだが、
「瑠璃垣さん、ですね。年齢はおいくつなんですか?」
「……二十九です」
「あっ、そうなんですか? じゃあ私と同い年ですね!」
「……そう、ですね」
「ご出身はこのあたりなんですか? もしかしたら通学路とかですれ違ったことがあるかもしれませんね! もしくは、部活動等で学校対抗の行事に参加していれば同じ場所にいたのかも」
「いえ、実家は県外なのでそれはないと思います。部活も帰宅部でしたし」
「そ、そうですか……。あ、では今は都内でお一人暮らしを?」
「はい。こっちで就職、したので」
「一人暮らしって大変じゃないですか? 私は恥ずかしながらずっと実家暮らしでして。ある程度のことは出来るつもりですけど、やはり母に甘えてしまう部分も多くて」
「はぁ。慣れれば誰でも出来ると思います」
「その慣れるまでが大変そうだなと思ってしまって、なかなか勇気が出ないんです。一度は一人暮らしをしてみた方がいいと言いますし、挑戦しようとは思うんですけど、なかなかきっかけがなくて」
「はぁ、そうですか」
「…………」
「…………」
(……か、会話が、続かない!!)
共通点から新しい話題を振ってみたり、共感性を利用してみたりとあらゆる手を使いながら話を続けてみるも、返答は一言二言の通り一遍で盛り上がる気配がない。これでは質問攻めだ。出会いの場でこの応対とは、余程興味を持たれていないのか、人見知りが激しすぎるのか。
「ぶー。ねーねー、ずーっと二人で話してない? せっかくだし俺とも喋ろうよ!」
「俺、じゃなくて、俺たちだろう? ですが確かに梶谷くんの言う通りですし、神崎さん瑠璃垣くんのお二人も、話に混ざりませんか?」
瑠璃垣さんとの停滞した会話に悩んでいたところに、荒瀬さん梶谷さんが助け舟を出してくれた。隣席の女性たちの表情が明るいところを見ると、四人で楽しく盛り上がっていたのだろう。それでもこうして私たちに気を配ってくれるところから、二人が気配り上手で話し上手らしいことがよくわかる。
(今日は出会いを求めて来たわけだし、申し訳ないけどこれ以上私が世話を焼いても仕方がないかな。余計なお世話かもしれないし)
普段であればもう少し対話への努力を続けていただろうが、今日の目的は多くの男性と知り合うこと。出会いに消極的な態度の一人にばかり集中していられない。
「ぜひ! 今はどんなお話をされていたんですか?」
「今はね、何の動物が好きかって話から、私の家族の話になっちゃって。うちの猫ちゃんが……」
心の中で気持ちを切り替え、ありがたく誘いに乗ると、隣の女性が嬉々として語る話に耳を傾けた。
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