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迎えた昼休み。
私は昼食もとらず、真っ直ぐ生徒会室に向かった。
そして。
すぅと息を吸うと、ガラガラと遠慮がちに戸を開いた。
「……こ、こんにちは」
気まずさに、声が先細っていく。
それを阻止しようと語尾だけ無理にボリュームを上げて、かえって不格好になる。
羞恥で熱くなる頬を袖で隠しながら、そっと室内を見た。
中には男子が一人。
皺のない白いシャツに、グレーのニットベスト。
制服のようなきっちりした格好の彼を見て、私はあっと声を上げた。
「ほ、堀米くん」
「あっ……わ、若林さん!」
急に入室した私を見て、堀米は一瞬びくりと肩を震わせ、目を見開いた。
驚かれたことへの悲しみと、驚かせたことへの罪悪感が、絵の具を溶かすように胸に広がる。
「……ご、ごめんね? 驚かせて……」
「とんでもない! こちらこそごめんだよ。 その……来ると、思ってなかったから」
ズキンと胸が痛む。
『来ると思ってなかった』
その言葉が、
『今更何をしに来たのか』
に変換されて、ぎゅっと唇を噛む。
無責任にも仕事を投げ出して帰ったのは私だ。
暴言を吐いたのも、乱暴に戸を閉めて帰ったのも、全て私だ。
言葉を繰り返し噛み締めながら、私は、床が見えるほど頭を下げる。
「……昨日は、失礼なことを言って、挙句仕事をほったらかして帰って、すみませんでした」
そして、でき得る限り真摯に謝罪した。
静寂の向こうに、昼休みの放送が聞こえる。
どこか上の方で、トランペットが高らかに吹き鳴らされている。
沈黙が、痛い。
私は、恐る恐る顔を上げた。
と。
目を丸くした堀米と、ばっちり視線がぶつかる。
「……もしかして」
堀米が、ゆっくり問いかける。
「もしかして、それを言うためだけに、また訪ねてきたのかい?」
「そ、そうだよ! 無責任だったし、あんまりなこと言っちゃったから……!」
心底意外そうな彼の声に、返す語調がつい強くなる。
ああ、またやってしまった。
可愛くない。
そう思い、口元を袖で隠すと。
「……ふふっ」
零れ笑いが耳に入る。
堀米は、両目を糸のように細めて微笑んでいた。
「聞いたよ。若林さん、担架に乗せられて無理矢理連れて来られたんだってね」
「きっ、聞いたの!?」
動揺して聞き返すと、堀米は慈しむような笑みを浮かべた。
「うん。だから、謝るのはこちらの方なんだ。本当に、本当に申し訳ない」
そして。
私がした以上に、深々と頭を下げた。
「正直、無理矢理連れて来られたって聞いた時は、貴女が辞めて当然だと思ったよ」
「ほ、堀米くん?」
「あれで怒ったなんて、足りないくらいなんだよ」
おずおずと声をかける。
頭を頑なに下げたまま、堀米の口調に段々と熱が篭っていく。
「あの……」
「だから」
堀米が、私の顔を覗き込む。
その双眸で、私の眼を射抜くように見つめる。
「だから、またここで会えて、とても驚いたし、嬉しかった。若林さんに悪いところなんて、一つもないからね」
その真っ直ぐな視線に。
その真っ直ぐな言葉に。
胸が、きゅっと絞られるように痛む。
なのに同時に、フワフワとした浮遊感を覚える。
不快とは正反対の心地に、心臓が遅れて激しく脈打つ。
「……そ」
謝りに来たのに。
調子を狂わされた私は、ぼそぼそと呟くように言葉を紡ぐ。
「……そう。あ、あ、ありがとう。……あ、あのね、私、昨日の仕事の続きをしに来たの……!」
ああ。
また、可愛くない。
そう思いながら、言い訳がましく話題を移したことを早速後悔していると。
「ほ、本当か!?」
「本当なのね、青葉ちゃん!」
パーテーションの影から、雪崩れ込むように人が飛び出してきた。
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