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「あ、明日ですか!?」
叫ぶように言ってから、自分の無知を披露したことに気付き赤面する。
陣条は、はは、と力なく笑った。
「……とまあ、青葉くんですら知らないほど、生徒達の関心が薄い事柄なのだよ。各クラスで意見を集約して、明日の十六時までに目安箱に入れるよう言っているのだがな……」
その言葉を受けて、八重野が戸を開き、廊下に設置された段ボール製の箱を持ってくる。
机の上で箱の裏側を開くと、雑に四つ折りされた紙が落ちてくる。
八重野は無言で紙を押し広げた。
学年もクラスも記載されていない。
ただ、中央に筆ペンで流すように、右下がりの字で。
『東男に京女』
と、それだけ書かれていた。
「……」
「……」
「生まれを課題にされても、どうしようもないでしょう!?」
やり場のない困惑を、怒声に似た強い叫びで昇華する。
困ったようにくすくす笑う八重野と、眉間の皺を伸ばすことのない陣条。二人の表情がこの状況を如実に物語っていた。
「なので堀米副会長達には、各クラスの学級委員長達に、真面目に案出しするよう呼びかけに行ってもらったのだ。これが明日まで人手が必要な理由だ」
陣条は渋い声で続ける。
「と、明日までは課題集めに注力するのだがな。それ以降の段取りを決めるためには、原則会長の認可が必要なのだ」
彼の言葉に、私はつい表情を強張らせる。
茶髪にだらしない格好の、不真面目そうな生徒会長。
柚木桐也。
昨夕の最悪の出会いを思い出し、私は自然と眉根を寄せる。
「だのに会長は、この生徒会室に顔を出すことも少ない」
「仕事しないだけじゃ、ないんですか?」
「ああ。たまに顔を出すものの、彼奴がいつ現れるかは予測不能なのだ」
陣条の言葉に、私は両の拳を握り込む。
生徒会長はどこまで無責任な態度を取るのか。
「副会長の堀米くん……同じ中学出身の彼が頼んでも、駄目なんですか?」
「そうなの。堀米くんや私が言っても、聞き入れてくれないのよ」
困り顔の八重野は、そう言うと。
爪を掌に食い込ませながら聞いていた私を、懇願するように見つめた。
「青葉ちゃんに昨日怒ってもらって、ちょっとは懲りたと思ったのに。今日もまだ、ここに顔を出してないわね」
「こ、懲りた……?」
平気の平左のような顔で聞いていたというのにか。
疑問を呈すると、八重野は眉尻を下げたまま小さく笑った。
「うん。効いたように見えたわ」
「そ、そっかな……?」
彼女の言葉を受けて。
自信はあまりないものの、もしかしたらという希望が光る。
胸に、闘志が宿る。
そして私は、またも直情的に言葉を口にしていた。
「じゃ、じゃあ……。連れて来られるか自信ないけど……私、会長を呼びに行ってみても良いですか?」
「本当!?」
八重野の笑みで場が華やぐ。
私を連れてきた時のような、天使の笑顔を浮かべて、彼女は私の手を取った。
「ありがとう、すっごく助かるわ! 教室まで柚木くんを呼びに行くの、お願いするわね!」
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