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「おおおお! 奇跡だ!」
その日の放課後。
昼休みにも聞いた陣条の歓声が、繰り返し室内に響き渡った。
生徒会室の長机にて。
目安箱に投函された合宿課題案が、三つの島に分けて積まれている。
学年ごとに纏められた紙の山は、その高さの分だけ生徒達の協力を示していた。
「どれもまともな案だぞ!」
「どれを採用しても困ることはなさそうだなぁ」
囲む執行部員の顔は、皆一様に明るい。
教室での議論を目の当たりにした私でさえ、まだこの現状を奇跡のように感じていた。
「どれどれ、失礼します……」
私は一枚一枚を手に取り、心の中で読み上げていった。
クラス内外の交流を増やす案。
自己課題や目標を探す案。
合宿所で自立した生活を送る案。
上級生の場合は、昨年の合宿から成長した点を発見するという案。
似通った物が多いものの、常識的かつ難易度の高すぎない案が、十数件挙げられていた。
この中からであれば、各学年三つずつ、適切な課題を設定できそうだ。
時計の針が、デッドラインの十六時を指す。
「……やったぞ……」
奇抜な案が追加されなかったことに一同深く息を吐き出し、崩れるように机に手をついた。
「取り敢えず、最大の関門は突破したな」
「良かったですぅ……」
陣条を始め、この場にいる誰もが安堵の表情を浮かべている。
私が運び込まれた一昨日以来、初めて見る和やかな雰囲気に、頬が緩むのを感じた。
ガラッ。
と。
突然開いたドアに、全員の注目が集まった。
「お疲れ様です」
丁寧に頭を下げて、入室してきた黒髪の男子は、副会長の堀米。
そして。
「お疲れさまーっす」
間延びした声で挨拶を済ませ、堀米の後ろから現れた茶髪の男子を見て。
私は思わず、ああっと大声を上げた。
「会長! ……本当に来た!?」
「お前が来いっつったんだろうが」
会長──柚木は、不機嫌そうに私に目を遣ると、間もなく室内を見回した。
歓喜に湧いていた面々が、しんと押し黙る。
この、何をしでかすか分からない権力者を、不信の目で見つめている。
視線を一身に浴びながら、彼は部屋の中央までずんずんと進んだ。
「えー、皆さん」
私達の正面に立ち、柚木が口を開く。
相対する私達に、何を言うのか。
警戒しながら見守っていると。
「今日までの業務、お疲れ様っした」
彼は、深く頭を下げた。
「……え?」
唐突な労いの言葉に、戸惑いの声が漏れる。
彼がどういう意図で発言したのか。
次に彼がどのような行動をとるのか。
掴めなさに冷や汗を掻きながら、彼の顔を見て。
私は言葉を失う。
正面を向いた柚木が。
真っ直ぐ、真剣な眼差しをしていたからだ。
「で、お疲れのところ申し訳ないんですけど」
そう前置きをして。
柚木は姿勢を正し、堂々と声を張った。
「今日中に、課題の選出をして、合宿準備の基礎を終わらせます。ご協力よろしくお願いします」
「えっ!?」
「きょ、今日中にか?」
先程まで喜び合っていた執行部員達が、一瞬で凍りつく。
皆が疲労困憊の中、更に労働を押し付けようというのか。
「ちょっと──」
許せない。
他の執行部員を何だと思っているのか。
文句を言おうと一歩前に出た時。
柚木は、鋭く言葉を付け足した。
「今、十六時過ぎ。これから分担を発表するんで、十六時半までに三学年分課題を決めます。そこから雑務をして、今日の業務は十七時で終わることを目標にします」
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