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「なっ……!?」
柚木の衝撃的な発言に、聴衆はざわめきを通り越し、絶句する。
上級生の話では、今年度の生徒会発足以来、十八時より前にこの部屋が施錠されたことはないらしい。
ともすれば他の部活動よりも早い、終了時刻の目標を掲げられて。
執行部員の顔に浮かぶのは、喜びではなく、諦めの乾いた笑いだった。
「…………無理だ」
前生徒会長の陣条が、絞り出すように低く呟く。
場を、深い沈黙が支配し──
────否、支配しなかった。
パン、パン。
手を叩く音が響く。
鳴らした主は、八重野書記だった。
「はいはーい。ノルマじゃなくて『目標』ですよー。叶ったら良いなってことで、一つ協力していただけませんか?」
八重野の優しい口調に、はっとする。
今することは会長への反発ではない。
多くの業務を少しでも早く片付けることだ。
「明日やっても今日やっても同じなので、できることだけ試してみませんか?」
駄目押しで、堀米副会長が呼びかける。
普段生徒会室に出てきては、真面目に仕事をこなしている堀米と八重野。
中学時代、柚木生徒会長の下で働いていた経験のある二人。
この二人が会長を信じて従うならばと、呆けていた面々が次第に、分かった、試す、と声を上げる。
それを聞いた柚木は、満足そうに笑みを浮かべた。
「よし。各学年二人ずつペアを組んでください。ここ、ここ、ここ。はい、よろしくお願いします」
柚木は、部屋の前後と脇の黒板を指差し、今までの『だらけ』が嘘のように、てきぱき指示を出していく。
私は一年生組として、八重野とペアを組むよう指定された。
「出された案には傾向があると思うんで、十五分までに各学年内で纏めて、黒板に書いてください。その段階で一度進捗確認します」
「傾向を纏める……というと?」
やや抽象的な注文に、質問が飛ぶ。
柚木は訳知り顔で頷くと、唐突に視線を私に向けた。
「おい青葉」
「私?」
「そうそう。お前、一年の課題案見たか? 大雑把で良いから、どういう分類したか教えてくれ」
「……。では、ほんの感想ですが」
勝手に話を振られ、眉間に皺が寄るのを感じる。
私は前置きした上で、先程見たところの所見を述べた。
「一年生は、コミュニケーションを取ること、勉強などの何らかの課題を設定すること、合宿運営や生活の一部を生徒で行うこと、に分けられる印象でした。上級生はプラス、前年度からの成長という意見もあったかなと」
「おう、サンキュ。模範解答だな」
柚木は私の意見を聞いて、ニヤリと口角を上げる。
「まずはこんな感じで、仕分けだけしてもらえれば大丈夫です。後で、分類されたグループから大体一つずつ、課題を選びます」
大まかな説明をした後。
柚木は再び全体を見回し、指示を飛ばした。
「早く分類が終わったところは、その先の課題抽出について話していてください。以上、よろしくお願いします。サキは今のうちに顧問連れて来いよ」
かくして私達は柚木に従い、作業班ごとに散らばった。
八重野と私は、先程挙げた分類ごとに紙を分け、あれが良いこれが良いと意見を言い合う。
誰かが達成不可能な課題にしてはいけない。
頑張れば誰でも達成できるのは、どの案だろうか。
言葉を交わす度。
候補が一つ、また一つと絞られていく。
「おし、進捗確認しまーす。他の学年の意見も参考にしてくださいねー」
途中、全体での進捗報告を挟みながら。
分類ごとに、第一案と次案まで絞ったところで。
ガラリ、と戸が開く音がした。
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