1話 労働とは情報戦だ

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「お疲れ様! 皆頑張ってるな!」  入室するなり、溌剌(はつらつ)とした声で笑った男性に、視線が集中する。  見覚えのない若い教師だ。  誰だろうと思案していると、その後ろから堀米が現れた。  なるほど彼が、堀米の連れてきた生徒会顧問らしい。  時計を見ると、定刻の十六時半ジャスト。  作業に当たっていた面々の集中と緊張が解け、場の空気が少しだけ緩む。 「お疲れ様でーす。合宿課題について、今時点で絞った案について発表してもらいまーす」  間髪入れず、柚木が手を叩いて注目を集めた。  今来たばかりの顧問も、うんうんと頷いている。堀米が事前に説明しておいたのだろう。 「じゃ、『一年生オリエンテーション合宿』の担当班から頼む」    話を振られた私は、八重野と頷き合う。  そして全体を見回し、発表を始めた。 「はい、課題案は三つあります。 一つ目はコミュニケーションとして『生徒三人への自己紹介』。 二つ目は実力テスト返却を受けての『課題把握と今後三箇月分の勉強スケジュール作成』。 三つ目は自立的活動として『生徒主導のキャンプファイヤー準備・片付け』。 この案に問題があった場合、次点の案は──」  黒板のメモを手で示しながら、一つひとつ説明する。  顧問は少し目を見張ると、にかっと爽やかな笑みを見せた。 「──以上です」 「おお、しっかり纏まっているじゃないか!」 「あ、ありがとうございます!」  思いがけず顧問に褒められ、恐縮で頭を下げる。何とか形になり発表できて良かった。 「お疲れ。次、『二年生フォローアップ合宿』担当班の先輩、お願いします」   柚木は簡潔に労いを口にし、さっさと進行した。  先輩方も同じように、大体の課題案を纏め終えていたようだ。  『夕食の準備・片付け』や『合宿そのものの課題検討』など、課題の難易度は一年生のものより若干高めに設定されていた。  全学年分の発表が終わる。  聞き終えた顧問は、満足そうに笑った。 「今年は色々と案が集まって、随分賑わったみたいだな。それなのに、こんなに早く纏めて素晴らしい! 明日早速、先生達に伝えるよ」  顧問の言葉に、誰もが顔を明るくする。  時刻は十六時五十分。  本当に、十七時前に話が纏まった。  驚きと喜びで呆けていると。  柚木が藁半紙(わらばんし)を各班に配付していく。  『【自主課題案】一年生オリエンテーション合宿』  ゴシック体のタイトル踊る紙には、本日の日付と、『課題案』『目的』と題された三×二の空き枠が刷られていた。 「先生、後は今の内容を紙に纏めて職員室まで持って行きます」  プリントを配り終えた柚木は、時計を指差して声を張った。 「各班、今の発表内容をプリントに書いて、オレに提出してください。今日はここまでにして、皆で十七時に帰りましょう」 +++ 「──はい、よろしくね」 「おう、お疲れ」  八重野が、黒板から課題案を写し取り。  柚木に提出したところで、全学年分の取り纏めが終了した。  時計は十七時を指している。  上級生達は、懸念事項が片付き日を終えられることに歓喜し、沸いていた。  対する一年生組は、妙に冷静だ。  だるそうに伸びをしながら、早口で指示を出す柚木に、堀米と八重野が応えている。 「じゃ、帰りがけに職員室に寄って提出するか。サキお前、明後日の昼、放送室借りる予約しとけよ」 「了解。あと消防署への届出、受理の連絡が来てたって」 「お、早いな。課題が承認されたら、一度合宿所に段取りを報告しなきゃな。八重、合宿のしおりの進捗は?」 「余興に変更なければ、去年の使い回しだからほとんどオーケーよ。後は課題の部分と、課題によって変わるところくらいかしら」 「サンキュ。明日一度、先輩達に見てもらうか」  手際よく、話が進められる様子を。   私は呆然として、ただただ眺めていた。
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