1話 労働とは情報戦だ

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+++  ピンポンパンポン。 「こんにちは、生徒会からのお知らせです」  週末を待つ金曜日。  少し気だるげな昼休みの校内に、堀米の優しい声が響く。 「五月のオリエンテーション合宿及びフォローアップ合宿の自主課題について────」  堀米は放送機材のつまみをいくつか弄り、ピアノの落ち着いたBGMを流しながら話し始める。  それを見ながら、私──若林青葉は、ほぅと息を吐いた。    一昨日顧問に提示した合宿の課題案は、昨日無事に教員の審査を通過した。  正式に決まった各学年の課題が、堀米の口を通して全校生徒に伝えられる。  会長の柚木はこの放送室に来ていない。  対外的には、当面『ヤバい生徒会長』を演じ続けるつもりらしい。  柚木の実態を知る生徒もいるらしいが、『また何か企んでるって静観されるだろうから心配無用』と告げられた。  柚木の辣腕(らつわん)が明かされる度、つい耳を傾けてしまう。  私とは正反対の生徒会長。  彼の手法を知りたい私は、あの日からずっと興奮冷めやらぬままでいた。 「──以上です。続いて、部費の請求について、会計よりお知らせがあります」  そう言うと、堀米はつまみを一つ動かし、パイプ椅子から立ち上がる。  私は彼と交代し、原稿を機材の上に広げた。  そしてマイクを口元に寄せると、先程堀米が下げたつまみを少しだけ上げる。 「各部活、同好会の会計担当者に連絡です。部費を請求するときは、当面の間、追加書類を添付してください。統廃合などの活動状況を確認するため、ご協力よろしくお願いします」  一昨日の放課後。  柚木のような考えができないかと模索した結果。  部費会計問題解決のため、思い付いたアイディアは、合宿課題と同じように『当事者に委ねる』ことだった。  どこの活動が統廃合されたのか。  今年度の予算はいくら付いているのか。  統廃合されている場合、どのように予算を分けたいのか。  寄付金などの使用状況は適切か。  そもそも会計担当は誰で、どこに連絡すれば良いのか。  生徒会で調べようとすれば、そもそもキリがなかったのだ。  予算を申請する際には、これらを記入した書類を提出させる。  不明なことがあれば、相手方に説明してもらう。  これならば、予算を使う活動側は自分達で状況整理するだろうし、生徒会には記録が残る。  試験的なアイディアだが、双方に利があるということで、昨日会長に承認を貰えたのだった。
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