2話 高度な技術を妄信するな

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「あー、どうすりゃ良いかね。部屋の前にホワイトボードを出して、その日の予約表を書いておくとか?」  桐也は頭をガリガリ掻きながら、だるそうな口調で、けれど真面目な提案を返す。 「キャンセル待ちの奴は連絡先を目安箱に入れるようにするとか。あー、でもこれだと飛び入りの奴がいる分、不公平になるか?」 「なるほど、そっか! それなら注意書きを入れれば良いかも。そしたら急ぎの人は、直接様子見にも来るんじゃない?」  ポンポン次々に叩き台を口にする桐也。  目を輝かせて案を磨く青葉は、生き生きとして楽しそうだ。  眼前で繰り広げられているのは、ごく普通の生徒会長と会計の話だ。  そんなことで胸が痛む、僕の方が非常識なのかもしれない。  それでも真っ直ぐ桐也に向かっていく青葉を目にしては、どうしても嫉妬の念が浮かんでしまう。  もっと自分が頼りがいのある人間だったら。  青葉に話しかけられていたのは、僕だったのだろうか。 「キャンセル待ちの人も、ホワイトボードに書いてもらうのはどうかな?」  気付けば僕は、無意識に呟いていた。  意図せぬ独り言に慌てて顔を上げると、二人とバッチリ目が合う。  予期せず会話に参加することになった僕は、内心焦りながら言葉を付け足した。 「ほら、目安箱に入れるのは、連絡先を公開させないためでしょう? でもキャンセル待ちの順番が『見える』方が良いんじゃないかな。名前をボードに書いて、連絡先だけ目安箱に入れるとか。どうだい?」 「なるほどな」  僕の提案に桐也はニヤリと笑う。  青葉は瞠目した後、パカッと口を開けた。 「いいね、それ! ファミレスの受付みたいなイメージで良いのかな?」  彼女は笑顔で賛同すると、頬に手を当て再び考えを巡らせ始める。  クルクル変わる彼女の表情を見ていると、それはやはり嬉しくて。  心の中の黒いモヤが、少しだけ晴れたような気がした。 「じゃあそれでいくか。週明けの昼に放送するぞ」  桐也は鷹揚(おうよう)に頷き、纏まった案を承認した。  そして僕の方を向いて一言。 「おいサキ。放送室の予約取ってこい、今すぐ」  桐也はなんとも合理的で立派な司令官だ。  青葉と離れがたい僕の心情を最大限に活用している。 「ちょ、ちょっと! 堀米くんは今日もいっぱいお使いに行ってきたのに!」  青葉がフォローするも、桐也はニヤニヤ半笑いを浮かべるだけ。  この部屋に青葉がいる限り、僕が誰より早く任務をこなして帰ってくると、踏んでいる辺り質が悪い。 「大丈夫、行って来るよ。心配ありがとう若林さん」  荷物を纏めて席を立つ。  最後に青葉に声をかけると、気遣わしげに僕を見つめる彼女と目が合った。  こんな視線を貰えるだけで、まあ良いかと流されてしまう自分に呆れながら。  微笑みを返して、僕は足早に生徒会室を後にした。
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