2話 高度な技術を妄信するな

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 生徒会室に戻ってきては、用事を言い付けられて出ていく副会長を思い浮かべ尋ねる。  と、柚木はブラブラと手を振りながら答えた。 「あ? サキなら学外の用事頼んでそのまま帰るよう言ったから、今日はもう帰って来ねえよ」 「そ、そうなんだ?」  けろっと話す彼の言葉に、私は驚く。  生徒会の仕事に、柚木の雑用。  ひたすら椅子から動かない柚木とは正反対に、堀米はよく動き、よく働く。  淡々と無茶ぶりに応え続ける彼は、私のような泥臭さを感じさせないスマートな振る舞いをする。  柚木とも、私とも違う人。  気にならないといえば、嘘だった。 「何、お前、サキに会いたかったのか?」  柚木はニヤニヤしながら好奇の目を私に向ける。  違う意味に取られかねない言葉を口にしたのだと気付いて、熱が一気に顔全体に伝播する。 「そ、そうじゃなくて! 堀米くんにもお礼言いたかったのと、あと、私物を借りちゃってたから!」 「ほーん」  受付机に置いていた、堀米からの借り物をわざとらしく手に取る。  柚木はというと、気まぐれにからかっただけらしく、すぐにそっぽを向いた。 「良かったな」 「へ?」  柚木は扉に目を向けながら呟く。 「叶いそうだぜ」 「それって、どういう──」  コンコン。  質問の途中、生徒会室の扉が、外側からノックされる。  こんな時間に誰が来るというのだろう。  (いぶか)しむ視線を送った私とは正反対に、柚木が躊躇なく解錠した。    ガラッ。  すぐさま開いた扉の外に、立っていたのは。 「堀米くん?」 「お疲れ様、若林さん」  今まさに話題に上っていた彼は、私に目を向けると、何でもないことのようににっこり微笑んだのだった。  誤解を招きかねない会話を、聞かれていなかっただろうか。  内心慌てる私とは裏腹に、堀米は優しげな笑みを崩さない。ので、真相が分かるはずもない。  彼は鞄から封筒を取り出すと、柚木にさっと手渡した。 「直帰して良いって言ったろ?」  尋ねる柚木の口調は、気遣わしげではなく愉快げだ。 「ギリギリ、戻れそうな時間に、頼んでおいて……。そう言うのは、ずるいだろ」 「確信が持てなかった時点でズルじゃねえ。おめでとう、新記録だぜ。多分な」  対する堀米は、シャツの襟を摘まんでパタパタ小さく(あお)ぎながら抗議する。  余裕そうに振る舞っているが、彼の声は普段より途切れがちで、額にうっすら汗が滲んでいた。  いつもスマートで隙がない堀米の、見慣れない姿にドキッとする。  思春期らしい過剰な意識を自覚しつつも、怒っても照れてもすぐ熱くなるこの頬を、どう隠したら良いのかなんて分からないまま。 「お、お疲れ様。どこに行ってたの?」  私は視線を逸らしたまま堀米に問いかける。  彼は、見ずとも分かる優しく柔らかい声で用務先を口にした。 「隣の冬花中に、ちょっとね」 「そ。古巣にあった、オレの荷物を取ってきてもらったのさ」  息切れをあまり感じさせない自然な答えに、柚木が横から付け足す。  ここ山茶花高校と隣接する、私立白練冬花中学校。  同じ学校法人が運営する中学は、柚木や堀米、八重野の母校でもあった。 「この時期になっても卒業写真を受け取ってないの、トウヤだけだったからな?」 「マジで? 皆真面目だな、オレには真似できねえ」 「知ってる」  受け取った封筒から取り出した写真をヒラヒラ振りながら、柚木は半笑いを浮かべた。  何気ない二人の会話をふんふんと聞いていた私だったが、ふと違和感を覚える。  反芻した後纏まった疑問を、私は彼らにそのままぶつけた。 「堀米くん。完っ全に会長の私用で、お使いに行かされたの……?」
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