2話 高度な技術を妄信するな

12/18

59人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
***(side 堀米 正樹)*** 「若林さん、大丈夫?」 「えっ!?」  週明けの朝、生徒会室。  目の下に隈を作った青葉を目にして、僕、堀米正樹は事情を聞かずにはいられなかった。  登校するや否や、質問を投げられて驚いたのだろう。  青葉は少し狼狽した後、誤魔化すように「あはは」と笑った。 「そう見える、かなあ?」 「うん。週末も生徒会の仕事、持ち帰ってたみたいだから。頑張りすぎて具合悪くしてないかい?」  頑張り屋であるのは彼女の長所だ。  それでもどうしても心配してしまうのは、心配をかける彼女が悪いのか、心配性な僕が悪いのか。  いずれにしても眠たげな様子を見ては、僕はただ質問することしかできなかった。 「ん? うん、そっちはね、大丈夫だよ。昨日までに全部チェックしちゃったから!」  青葉の言葉に、僕はワンテンポ返事が遅れる。 「え? 先週までの分の『置き土産』、どこが間違っていたのか、全部解き明かしちゃったってこと?」  彼女はけろっと何でもないことのように言い放ったが、概算で十数件は持ち帰っていたはずだ。  仕事の速さに言葉を失っていると、青葉は達成感に満ちた極上の笑みを見せた。 「そう! ちゃんと終わったから心配しないで!」  いつの間にか青葉の体調の心配から、進捗の心配に話がすり替わっている。  聞きたいのはそこではない。  僕は彼女に近寄りながら問いを重ねていく。 「じゃあ、他に懸念事項でもあった? トウヤがパワハラした? 何かとんでもない業務をひっ被っていたり……」 「ほ、本当に何でもないよ……!」  目を逸らして語気を強める彼女は、どう見ても強がりをしている。 「本当に?」  ずいと歩み寄る。  と、青葉は胸の前に掌を掲げて、思い切り顔を背けた。 「大丈夫! 堀米くんに関係するような何かで問題があったとかじゃないから、気にしないで!」  真横を向いたまま。  彼女から放たれた言葉は、線引きだった。 「っ…………、そっ、か」  胸が、絞られるように痛くなる。  人に拒絶されることが、こんなにも苦しいのは初めてだ。  僕はまだ、彼女にとって『蚊帳の外』の人間に過ぎないのだと。  自覚がじわじわ広がって、言葉が続かなくなる。  元気を出して、とか。  無理しないでね、とか。  彼女が相手でなければ。  無難でありきたりな言葉で労って、それで済ませることができるのに。 「僕は、そんなに頼りないかな……」  小さく呟いて、片手で口を塞ぐ。  思わず口から出た本音はあまりにも格好悪くて。  片想いの相手にだけは聞かれたくないような、ひどく情けない言葉だった。  気まずさで視線を逸らす。  口を噤んでも、気持ちは次から次へと溢れてやまない。  もっと青葉に頼られたい。  相談されたい。  悩みを聞きたい。  そんな器を持つ人間になりたい。  桐也のように。    そうなりたいならば尚更、こんな醜態を見せたくはなかったのに。 「ご、ごめんね、変なこと言って。気にしないで──」  言い繕っては、それすら呆れられていないだろうかと、ますます焦る。  堪らず、もう一度彼女の方を向く。  と。  なぜかきょとんとした彼女と目が合った。  青葉は僕を見上げながら、心底不思議そうな顔をして。 「えっ。なんで?」  首を傾げて、言葉を発した。 「堀米くんにはもう、すごく頼ってるよね? 申し訳ないくらい、すっごく」
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加