2話 高度な技術を妄信するな

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「いやいや、そんなことないでしょう?」  優しい言葉に甘えそうになりかけて踏みとどまる。    事実僕は桐也のように、彼女から手伝いをお願いされたり、相談を持ちかけられたり、懸念を打ち明けられたりしていない。  彼女に頼ってもらえている自覚など、できるはずもない。  否定の言葉を返せば、青葉は不服そうに少しだけ眉根を寄せた。 「いやいやいや、本当だってば! 一番、誰よりも、断トツでお世話になってるんだって!」  青葉は語調を強め、僕に一歩近付く。  気圧(けお)された僕は、先程とは正反対に一歩引く。 「だって、僕が『手伝うよ』って言っても、いつも 『大丈夫!』って返すから……」  また、つい本音を漏らしてしまう。  青葉の前ではいつもそうだ。  明かすまいと思っていた気持ちほど、いとも簡単に紐解かれてしまう。 「それは!」  バン、と。  青葉は人のいない長机を、片手で叩いた。 「それは、堀米くんが、気付いてくれるから!」  二人きりの朝の生徒会室。  青葉の声が、部屋中に響き渡る。 「気付く? 僕が?」 「そう!」  聞き返すと、青葉は腕を組んで一層声を張った。 「あのね! 堀米くんは、頼む前に、気付いて色々としてくれてるの! 書類の整理とか、決算書の回収とか!」  勢い付いた青葉は、スラスラと言葉を並び立てる。 「あと堀米くん仕事も速いから、すぐに自分の分終わらせて、『手伝うことない?』って聞いてくれるでしょ?」 「それは……」  答えに言い淀んでいると。  青葉は僕の顔に向け、ビシッと指を突き立てた。 「これ、一日に十回は聞いてくれてるから! 何なら三十分に一回くらいのペースで聞いてくれてるから!! 『お願い』って口頭で頼むのが、追い付く訳ないでしょう!?」  怒濤の勢いで言い募ると、青葉は肩で息をした。 「そんなに……聞いてた?」 「うん、聞いてた!!」  思わず聞き返すと、青葉は胸を張って迷いなく答える。 「だから、堀米くんが思うより、私はずっと堀米くんに頼ってるんだよ」  かと思うと、今度は諭すような優しい笑みで僕をじっと見つめた。 「というか私が言うのもなんだけど、堀米くんは働きすぎ! というより会長にこき使われすぎ!!」 「……ふふっ」  温かいものが胸を満たしていく。  笑声が自然と零れ出る。  彼女の仕草の一つひとつが、堪らなく愛らしくて。  彼女の言葉が、宝物のように嬉しい。  僕は足を止めて、もう一度しっかり青葉と向き合った。 「若林さんに頼ってもらえてたなんて、嬉しいよ。本当にありがとう」 「いやいや、お礼を言うのは本当にこっちの方で……」  自ずと会話のテンポが緩やかになっていく。  クスクスと笑い合えば、不安も嫉妬も、紅茶に溶かすようにじわじわ(ほど)けて温かくなっていった。 「だからね、本当にありがとう。堀米くん」  僕の目を真っ直ぐ見つめて。  青葉は柔らかい笑みを見せた。  その満面の笑顔に。  『初めて』彼女と出会った時の記憶が、鮮明に蘇る。  一生懸命な時とのギャップも含めて。  僕は、初めて青葉の笑顔を見た時に、とても吃驚して。  そこから彼女のことを、深く深く好きになったのだ。 「堀米くん?」  目の前にいる青葉の言葉で、白昼夢から覚める。 「ううん、何でもないよ。ちょっと思い出したことがあっただけ」  応えた声は数分前より、先週より少しだけ明るくて。  口元は、自然と緩んでいた。
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