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それからの一週間は、怒濤の勢いで過ぎ去っていった。
くよくよ悩んでいる暇がないほど、様々な同好会に足を運び、大量の書類を捌いた。
そして。
「よっっし! この同好会でラストだ。終わったー!!」
五月最後の金曜日。
青葉の万歳と共に、生徒会室が歓声で満たされる。
「疲れたー!」
「でも終わったぞー!」
「もう当分『部費』の文字は見たくないわー!」
ピリピリした空気と山積みの書類から解放され、誰もが喜びで席を立った。
マーカーで塗り潰されたリストを片手に、青葉が頭を下げて回る。
「本当にありがとうございました! 皆さんのご協力のお蔭で、何とか間に合いました!!」
「何言ってるの! 一番頑張ったのは青葉ちゃんじゃない!」
「そんなそんな……!」
受け答えも、皆自然とハイテンションだ。
パチン。
青葉と八重野がハイタッチしたのを皮切りに、次々と周りで手が挙がる。
「堀米くん!」
「!」
元気良く名前を呼ばれ、胸が鳴る。
青葉は僕を見上げ、晴れがましい笑顔で万歳をした。
パチン。
彼女の両手に、僕の両手を合わせる。
小さくて温かい感触は、けれどすぐに離れていった。
多幸感と、少しの物足りなさ。
矛盾する感情も、彼女が原因ならばどこか心地好かった。
「ありがとう! この前も言ったけれど、本当に本当に、たくさん助けてもらっちゃったね」
「ううん。そう思ってくれて嬉しいよ」
「こちらこそだよー! 本当にありがとう!!」
満面の笑みではしゃぐ青葉が心底愛おしい。
彼女の笑顔に貢献できたことが、この上ないほど嬉しい。
「あのね、お礼ってほどではないんだけど……」
青葉は少し照れ臭そうに、巾着袋からゴソゴソと中身を取り出し、僕の掌に置いた。
小袋に包まれた、鞠のようなどんぐり飴が、二つ。
「……っ!」
初めての貰い物に言葉が詰まる。
コロンとした淡い桃色と黄色の飴の愛らしさに、しばし見入ってしまう。
青葉は僕の側を離れると、次々に飴を配っていった。
「『飴ちゃんおばちゃん』みたいだな」
「うるさい! 要らないなら他の人にあげて!」
桐也のからかいに噛み付きながらも、彼女は皆に同じように手渡していく。
残念ながら、特別な贈り物ではなかったらしい。
そんな当然のことを、少し口惜しく思う気持ちが、決意に変わる。
僕は、映画のチケットを入れっぱなしにしていた鞄に目を向けた。
週が明ければ六月が始まる。
貰ったチケットの有効期間も終わってしまう。
青葉と僕は、特別な関係ではない。
今は、まだ。
だからこそ。
「若林さん」
勇気を振り絞って声をかける。
「どうしたの、堀米くん?」
彼女はあっさり振り返ると、僕の前に駆け寄って来た。
「いや、あの……本当にお疲れ様。これで、今週末は、ゆっくりできるのかな?」
探るように問いかける。
桐也や八重野達の視線を感じる。
鼓動が逸る。
「うん! 持ち帰りの仕事もないし、本当にこれで終わり!」
『探り』の言葉に肯定が返ってきて。
胸が、痛いほどに跳ねる。
誘う。
青葉を、デートに誘う。
頭の中で繰り返して、僕はゆっくりと口を開いた。
「じゃ、じゃあ……」
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