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「収穫?」
「うん」
八重野に問われ、僕は青葉に貸していたものをポケットから取り出す。
掌サイズのICレコーダーを見て、八重野は顔を顰めた。
「堀米くん。世の中には、やって良いことと悪いことがあるのよ?」
「違う違う。正々堂々と青葉ちゃんの許可を貰って録ったものだから」
真っ先に盗み録りを疑われたことを遺憾に思いつつ、僕は扉近くの壁を指差す。
受付用の机こそ元の位置に戻していたが、壁にはまだ貼り紙が残されていた。
『記録のため録音しています。暴言などはおやめください』
シンプルな注意書きに皆の視線が集まる。
八重野は「あっ」と声を漏らした。
「そういえば最初のうちは、思いどおりにならなくて暴言を吐いていく人が多かったのよね」
「ああ。『いいから承認しろ』と言ってくる者もいたな。段々見かけなくなっていったが……」
陣条は頷くと僕の顔を見た。
僕はにっこり微笑んでICレコーダーを翳した。
「防犯にもなって、青葉ちゃんの声を残せて。一石二鳥だったでしょう?」
僕はレコーダーを丁寧に鞄にしまい込む。
八重野は両腕を抱いて、蔑むような視線を向けた。
「職権乱用じゃない! データは消しなさいよ!」
「いやいや、生徒会室にはレコーダーがなかったし。僕が私物のレコーダーを提供したのも、『うっかり』データを消し忘れるのも、仕方のないことだよね?」
「うわっ、柚木くんみたいなこと言って!」
急に名前を出された桐也はムッと眉根を寄せる。
「オレはこんな変態じゃねえ」
「そんなこと言って、どうせ知恵出したのは柚木くんでしょ? 十分変態よ!」
「今回はオレ何もしてねえっつの! こいつが闘いの中で成長してやがるんだ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ声が部屋中に響く。
業務以外の話でこれだけ盛り上がれるのも、一区切りついたお蔭である。
ならばまた来月にでも、青葉を誘うチャンスはあるはずだ。
そう思えば、モヤモヤした後味も少しだけ和らぐような気がした。
僕は青葉から渡された飴二つを、掌に置いてじっと見つめる。
彼女にとっては何気ないものでも、僕にとっては特別な贈り物だ。
どう保存しようか。楽しく考えを巡らせていると。
「いや、食えよ」
喧騒を抜けた桐也に呆れ顔で突っ込みを入れられる。
「消費できる訳ないだろ、もったいない」
即答する。
と、桐也は僕の手を引いてビシリと指差した。
「ほら見ろ。こいつの方が変態じゃねえか」
桐也の主張により注目を浴びる。
僕は嘆息し、伝家の宝刀『桐也の推し女優』を持ち出した。
「好きな相手からの貰い物だよ? トウヤだって、今『ほずみー』からプレゼントを貰ったら一生大事にするだろ?」
しかし今回、彼は呆れたように半笑いするだけだった。
「いや、食べ物だったら賞味期限内には食うわ。くれた物を食べずに腐らす方が失礼だろ」
ズバッと返された正論に、僕以外の全員が首肯する。
この場に僕の仲間はいないらしい。
「もちろん腐らせなんてしないよ。確かに、青葉ちゃんから貰ったものを食べて、自分の一部にするのも魅力的だけどさ。いずれ細胞も入れ替わっていくだろう? だったらいつまでも眺められるように、冷凍庫にでも保存したいな」
自論を展開しながら、僕は自室の配線に思いを巡らせた。
たこ足配線になってしまうが、冷凍庫を用意しても良いかもしれない。
とはいえ小型の冷凍庫では長期保存に適したパワーが足りないかもしれない。
などと一人考えていると。
桐也を筆頭に冷ややかな視線を向けられていることに気付く。
「そこは同意できねえわ。ひょいと口に入れれば終わりじゃ……ん?」
一際引いた態度を見せる桐也は、僕の手元に目を向けて不意に言葉を途切らせた。
そしてしばらくまじまじと見つめた後、ニヤリと口角を上げた。
「……ほーん?」
「何?」
「いや?」
意味深な彼の意図は分からず。
僕は首を傾げながら、誰の同意を得ることもできないまま、片付け作業へ戻っていくのだった。
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