3話 自分を楽させることは後任を楽させること

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「それ、結局堀米くんに雑用を押し付けてるでしょ! 堀米くんもいい迷惑だよ!」  適当に追い払うにしても、関係のない堀米を巻き込むのはいただけない。  体よく押し付けられた彼が困っていないか、そっと顔を覗き込む。 「えっ! ううん、まさか!」  堀米は驚いた顔から一転、いつものように優しく微笑んだ。 「大丈夫、迷惑なんかじゃないからね。本当に。全然。全く」 「堀米くん……」  親切な彼は、迷惑でないという言葉を殊更に強調した。 「うん。折角だし、駅前にでも寄り道して帰ろうかと思ってたんだ。若林さんが迷惑でなければ、一緒にどうかな?」   迷惑をかけられる側だというのに、サラリと迷惑をかける風を装って、堀米は柔らかく提案をする。  気遣わしげで大人な対応に、否と言えるはずもなく、気付けば私はコクリと頷いていた。 「な、何かごめんね。よろしくお願いします……」  堀米に対し、ぎこちなくお辞儀をする。    県境の都会・白練市には、私の地元よりはるかに多くのショッピングスポットがある。  生徒会にさえ入っていなければ、友人と放課後に寄り道をするような高校生活に憧れていたものだ。  思わぬ形で夢が叶ったことと、その相手が女友達ではなく男子生徒の堀米であることに、照れと戸惑いを感じる。胸がドキドキと鳴っている。 「ありがとう、トウヤ」 「おう、サキ。礼は十倍返しな」  挨拶を交わし、堀米が手早く荷物を纏めていく。  続くように鞄を開きながら、私は周囲に残っていた執行部員達に声をかけた。 「あっ、お時間あればですけれど、皆さんも一緒に行きませんか?」 「えっ」  ぴしり、と。  一番近くにいた八重野が、可憐な顔を引き攣らせた。  和やかだったはずの空気が、凍ったように感じるのはなぜだろうか。 「や、八重ちゃん?」 「お、おほほ。私は、そうね、そういえば姉から頼まれ事をしていたんだったわ」 「会長、」 「ああん? 推し女優(ほずみー)の番組をリアルタイムで見ないといけないから無理だ」 「皆さんは……」 「ぼ、僕も隣町の図書館に行こうかなと」 「おおお俺は、持病の(しゃく)が……」  皆が次々に視線を逸らしていく。  心なしか、少しずつ彼らとの距離が開いているような気もする。 「えっ、持病! 大丈夫ですか!?」 「いいから行け! 解散だ、解散!!」  心配の声を遮るように、柚木がパンパンと手を叩く。  それを合図に、集団は素早く散会していった。  フラれたことに少なからずショックを覚え、呆然としていると、堀米が少し困ったような微笑を向けた。 「急な話だし、集まって何かするなら今度でも良いんじゃないかな? ……駄目かな?」  頬を掻く堀米。  これ以上、優しい彼を困らせてもいけない。 「そ、そうだね。じゃあ、お疲れ様でした!」  急にぎこちない態度を取った面々を不審に思いつつも、私はぺこりと頭を下げて、堀米と共に退室していった。  二人きりだ。  静かな廊下に出ると、現状が意識されて。  私は震える手で、鞄の持ち手をぎゅっと握ったのだった。
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