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「それ、結局堀米くんに雑用を押し付けてるでしょ! 堀米くんもいい迷惑だよ!」
適当に追い払うにしても、関係のない堀米を巻き込むのはいただけない。
体よく押し付けられた彼が困っていないか、そっと顔を覗き込む。
「えっ! ううん、まさか!」
堀米は驚いた顔から一転、いつものように優しく微笑んだ。
「大丈夫、迷惑なんかじゃないからね。本当に。全然。全く」
「堀米くん……」
親切な彼は、迷惑でないという言葉を殊更に強調した。
「うん。折角だし、駅前にでも寄り道して帰ろうかと思ってたんだ。若林さんが迷惑でなければ、一緒にどうかな?」
迷惑をかけられる側だというのに、サラリと迷惑をかける風を装って、堀米は柔らかく提案をする。
気遣わしげで大人な対応に、否と言えるはずもなく、気付けば私はコクリと頷いていた。
「な、何かごめんね。よろしくお願いします……」
堀米に対し、ぎこちなくお辞儀をする。
県境の都会・白練市には、私の地元よりはるかに多くのショッピングスポットがある。
生徒会にさえ入っていなければ、友人と放課後に寄り道をするような高校生活に憧れていたものだ。
思わぬ形で夢が叶ったことと、その相手が女友達ではなく男子生徒の堀米であることに、照れと戸惑いを感じる。胸がドキドキと鳴っている。
「ありがとう、トウヤ」
「おう、サキ。礼は十倍返しな」
挨拶を交わし、堀米が手早く荷物を纏めていく。
続くように鞄を開きながら、私は周囲に残っていた執行部員達に声をかけた。
「あっ、お時間あればですけれど、皆さんも一緒に行きませんか?」
「えっ」
ぴしり、と。
一番近くにいた八重野が、可憐な顔を引き攣らせた。
和やかだったはずの空気が、凍ったように感じるのはなぜだろうか。
「や、八重ちゃん?」
「お、おほほ。私は、そうね、そういえば姉から頼まれ事をしていたんだったわ」
「会長、」
「ああん? 推し女優の番組をリアルタイムで見ないといけないから無理だ」
「皆さんは……」
「ぼ、僕も隣町の図書館に行こうかなと」
「おおお俺は、持病の癪が……」
皆が次々に視線を逸らしていく。
心なしか、少しずつ彼らとの距離が開いているような気もする。
「えっ、持病! 大丈夫ですか!?」
「いいから行け! 解散だ、解散!!」
心配の声を遮るように、柚木がパンパンと手を叩く。
それを合図に、集団は素早く散会していった。
フラれたことに少なからずショックを覚え、呆然としていると、堀米が少し困ったような微笑を向けた。
「急な話だし、集まって何かするなら今度でも良いんじゃないかな? ……駄目かな?」
頬を掻く堀米。
これ以上、優しい彼を困らせてもいけない。
「そ、そうだね。じゃあ、お疲れ様でした!」
急にぎこちない態度を取った面々を不審に思いつつも、私はぺこりと頭を下げて、堀米と共に退室していった。
二人きりだ。
静かな廊下に出ると、現状が意識されて。
私は震える手で、鞄の持ち手をぎゅっと握ったのだった。
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