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「若林さん、いつも細い髪留めをしてるよね。そういうのが好きなのかい?」
「や、これは、特にこだわりとかなくってね……その、お洒落目的じゃないから……」
堀米は本当によく人のことを見ている。
私の普段使いのピンまで把握しているとは、と感嘆してしまう。
私が生徒会で前髪を留めているのは、お洒落のためではない。
寧ろ、作業効率のために広い額を晒す、恥じらいを捨てた行いだった。
「そうなの? 下ろしてるのも綺麗だけど、前髪を上げてるのも元気そうで可愛いのに」
それなのに、堀米はそれすらも包み込むようにフォローする。
動いている心臓にマッサージをかけられているかのように、胸が強く強く跳ね続ける。
言葉を発せない私を尻目に、堀米は陳列された髪飾りを楽しそうに眺めている。
「若林さんは、どういうのが好みなのかな? 中々こういうお店に入る機会はないのだけど、どれも綺麗だね」
「そ、そうだね……」
やっとそれだけを返すと、私も話題を繋げるため、ようやく陳列棚に目を向けた。
真珠のような光沢を持つ、淡緑の石を並べたバレッタ。
透明な樹脂に濃い紅色や藍色を流し込んだ、大人びたクリップ。
透かし細工の美しい、簪のような髪飾りは、マジェステというらしい。
スカーフのように広がる、目を引く柄のヘアターバン。
ふわふわ愛らしいシュシュに、大きいながらもシックな紺のリボン。
服装から勉強中の私は『髪飾りはお洒落上級者のもの』と思い、手を出していなかった。
だが、これらを一つでも身につけていれば、それだけで印象はかなり変わるだろう。恐らく同じTシャツ姿でも垢抜けて見えるほどに。
見惚れていると、堀米が棚から髪留めを手に取った。
そして私の頭に翳して、にっこりと微笑む。
「堀米くん?」
「うん。どれも似合いそうだけど、こんな飾りも綺麗かなと思って」
そう言って堀米は、手にしたものを私に渡した。
一つは、パール風の飾りが付いた、細身の淡い金色のピン。
もう一つは、落ち着いたオレンジ、グリーン、パープルのビーズが付いた、濃い金色のクラシカルな雰囲気のピン。
どちらも豪奢すぎず落ち着いていて、かつ目を引くデザインだ。
試しに鏡の前で翳すと、チョコレートブラウンに染めた自分の髪にしっくりと馴染んだ。
それを見た瞬間、私は驚くほど二つの髪飾りが気に入った。
堀米の趣味の良さに感嘆しながら、私はほぉと息を吐いた。
「堀米くん、さすがセンス良いなあ。普段使いに買っちゃおうかな」
「気に入ってくれて良かった。綺麗な髪に合ってると思う」
堀米はまたもさらりと褒める。
そして動揺している私の手から、髪留めを自然に取り上げると、そのままスタスタとレジの方へ歩き出した。
「えっ、ちょ、堀米くん!?」
突然の行動に驚き、慌てて私は彼を追う。
そしてレジ店員に品物を渡し、財布を取り出した堀米の手を止めた。
「な、な、な、何してるの!?」
「何って……気に入ってくれたんだよね?」
堀米はきょとんとした顔のまま、支払いを進めようとする。
「でも、貰いたいとか、そんなつもりで言ったんじゃ……!」
気遣いの塊の堀米に、必死で弁明する。
ねだったように聞こえたのならとんでもない。
彼は、困った顔をして、一言。
「……駄目?」
普段はさらりさらりと人を説得する堀米だったが、今回は珍しく一言で問うた。
押し通すような強さに、心臓がバクバク言って止まらない。
「駄、目!!」
が。
私は彼以上に強い口調で制止する。
そして財布を取り出して、瞬時に店員に代金を渡した。
こういうところが強情で可愛くないのだろう。
ただただ、そう思った。
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