4話 忙しい時こそ計画的に

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「では、レク大実行委員会の打合せを始めます。今日は両校の顔合わせということで、よろしくお願いします」  司会の生徒が会釈をする。    なぜ校内行事で、他校との顔合わせが必要なのだろう。  そう思ったのも束の間、私は生徒会室で聞いた話を思い出した。 『うちの高校のレクリエーション大会と体育祭は、場所をローテーションして行っているんだよ』 『一年目は校内のみで。二年目は山茶花高校の敷地で、合同で。三年目はあちら、白練水仙高校で。四年目はまた校内のみでって……そうやって行事で定期的に交流して、友好を深めようとしているんだよ』  生徒会の先輩が確かにそう言っていた。  話を聞くに、今年のレク大は本校を舞台に学校対抗戦とするらしかった。  他校との積極的な交流。  ただそれだけ聞けばウキウキしただろうが、不穏な前情報が不安を齎す。  因縁のライバルである高校同士。  それを『対抗戦』という形にして対立を煽れば、どのような結末になるだろうか。 「十三時からは、第一体育館でバレーボールとバスケットボール、グラウンドでサッカー、剣道場で百人一首、一〇一教室でリバーシと将棋を……」  スケジュール説明を聞きながら、私はそっと室内を見渡した。  山茶花高生は皆しっかりメモを取りながら聞いている。  一方、白練水仙高校の生徒達は、真面目に話を聞きつつも、時折山茶花高生の方を見ているようだった。  まるで敵を射るような視線で。  私は密かに頭を抱えたくなった。  山茶花(こちら)はともかく、白練水仙(あちら)が敵意を抱いていることは丸分かりだった。 「以上で競技説明を終わります。何か質問は──」  司会が部屋を見回す。  案の定、挙手した白練水仙高校の生徒から刺々しい言葉が放たれた。 「これ。今年から『バランスタワー』が種目に加えられたとのことですが、一体どういうことですか?」  棘のある口調で問われた司会者が、目を丸くする。  が、一呼吸した後、落ち着いた様子で回答した。 「毎年、主催側の学校で競技を決める『枠』があるでしょう。昨年校内でアンケートを取った結果、一位になったのが『バランスタワー』だったため採用したところです」  司会は「配付資料のとおりです」と淡々と説明する。  一方、問いかけをした水仙高生はフンと鼻で笑った。 「『バランスタワー』を大会の競技に採用した? 何の冗談かと思いましたよ。幼稚園ですか、ここは? さすが『自由放任』の山茶花高校ですね?」  思い切り馬鹿にするような言葉に、内心カチンとくる。  見下すような口調も、『自主自立』の校訓を揶揄する表現も、何もかもが癇に障った。  短気な私とは違い、司会は穏やかな表情で返答する。 「もちろん競技として成立するか、検討した上で採用したので大丈夫ですよ。詳しいルールはお手元の資料を見てくださいね」 「フン。馬鹿なことをいつも本気で実現しようとするから、山茶花は質が悪い」  向けられた剥き出しの悪意に、隣に座す橋爪が唇を噛む。  私も口を挟まないように、ぎゅっと両の拳を握った。 「突飛な案ですが、競技としてやってみると中々悪くありませんでしたよ」  司会の声は尚も穏やかだった。  ただしそれは、ただ優しげであるというよりも、言い聞かせるような強かな柔らかさであるように聞こえた。 「ふふ、遊びを『競技にしていく』のって面白いですよね。サッカーも元はボールを蹴るところから始まりましたし、百人一首も、和歌集から『源平合戦』の遊びが確立するまで、紆余曲折があったことでしょうね」  (とうとう)々と言葉を続けると、司会は問いの主に笑顔を向けた。 「『バランスタワー』と言うと驚かれるでしょうが、ルールを決めて競えば、それは立派な『競技』です。それともサッカーや百人一首と、どこか明確に違うところがあるでしょうか?」  にっこり笑って言葉を結ぶ司会。  対する質問者は悔しそうに唇を曲げた。 「ぐっ……さすが、口だけは達者な高校ですね」  そう言ったきり質問者は押し黙る。    相手の言葉ではないが、さすがは『論破できれば何でもアリ』の我が校だ。  口八丁で見事に言いくるめてしまった。  ただし室内の空気は最悪である。  水仙高生は恨みがましい目で司会を睨み付けているし、山茶花高生も難癖を付けてきた相手に良い顔をしていない。  まるで水と油だ。
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