4話 忙しい時こそ計画的に

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+++ 「会長。私のこと『鬼会計』って呼んでるってホント?」  週明けの月曜日。  私はホームルーム前の教室で、机に凭れる柚木に問うた。  一応笑みを浮かべようとするものの、口の端がピクピク引き攣って仕方ない。  柚木は私を見上げるとハッと半笑いした。 「ああ、呼んでるけど?」 「失っ礼なあだ名、付けないでくれる!? せめて内輪だけにしてもらって良いかな!?」  声を張って机に手をつく。  拳で机を叩かなくなっただけ成長したものだ。 「何言ってんだ。身内で変なあだ名付けても意味ないだろうが。『今年の会計は鬼のようだ』って吹聴しとけば、まともな決算書を出すところが増えると思ってな……」 「へーえ。つまり、決算してた五月にはもうそう呼んでたんだね? というか『変なあだ名』って分かった上で吹聴したんだね!?」  詰め寄るも、柚木は悪びれず口笛を吹く。  どうやら私はまた気付かぬうちに彼の掌で転がされていたらしい。  作戦と聞いて納得する気持ちと、否定したい心が()い交ぜになって大変複雑な心境だ。  が、言いたいだけ言ってひとまず溜飲は下がった。机から手を離し呟く。 「事前に教えてくれても良かったのに」 「言ったら反対する奴がいるからな……」 「そりゃあ、最初は反対するだろうけど!」 「馬鹿、お前じゃねえよ……」  開き直って、呆れたような顔をする柚木。  見慣れた顔だが、ふと違和感を覚える。  てれんとした服装やだらけた姿勢は通常運転。  しかし今日は、やや声が小さく、語尾にも覇気がないように聞こえた。 「会長、もしかして今日元気ない?」 「あ?」  心配して声をかける。  彼は舌打ちすると、頭をガシガシ掻いた。 「まあ、五月病っつうか、六月病みたいなもんだ。気にすんな」 「大丈夫? 最近生徒会にいないこともあるけど……」 「生徒会が回ってんならいいだろ。オレはほずみーの追っかけで忙しいんだよ……」  そう言うと柚木はそっぽを向いた。  先程までの怒りはどこへやら、言葉少なな背中に心配を煽られる。  彼が熱烈に応援している女優・立花瑞穂。  生徒会についてならともかく、彼女について語る時だけは力強く熱弁する柚木だ。  しかし今日は、好きな女優の語り口までも萎れている。  普段の状態に輪をかけて無気力だ。  これは本格的に具合が悪いのではないか。  心配がむくむくと膨らむ。  後で堀米や八重野に相談してみようか。  そう思った私は、チラチラ振り返りつつ教室を後にした。
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