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「柚木くんが、元気ない?」
「そうみたい。八重ちゃん、何か知らないかなあ?」
昼休み。
教室で机をくっつけ弁当箱を広げながら、私は八重野に尋ねてみた。
輪を作って話すのは橋爪を含めた三人組。
生徒会が落ち着いてからは、こうして教室で昼食をとれるようにもなった。
「と言われても、柚木くんが元気いっぱいな時の方が珍しいのよね」
八重野は頬に手を当て可憐に首を傾げる。
確かに柚木は、リーダーらしく振る舞いもするが、だるそうに過ごしている時間の方が圧倒的に長い。そして不憫な堀米をこき使っているのだ。
「それが、『立花瑞穂』さんのことを話してても、何となく活力がないんだよねえ」
「本当? 『ほずみー』のことについても、か。そっか、なるほどね……」
柚木ご執心の女優の名を出すと、八重野は小さく唸った。
そして「私も気にかけてみるわ」と小さく笑った。
彼の様子がおかしいのは、やはり私の気のせいではないようだ。
「柚木会長って不思議な人なんだね」
聞いていた橋爪がケラケラと笑う。
濃い青のネイルに紫のメッシュ、オフショルダーのトップス。普段着を纏った彼女は、委員会から一転すっかり元気を取り戻していた。
「先週レク大の実行委員会で、青葉っちが大活躍だったんだけどね。青葉っちってば『全部柚木会長から教わったものだから』って謙遜してたんだよ。だからすごい人ってイメージだったんだけど、中々面白そうな人だね」
橋爪の称賛に頬を熱くしつつ、私は「そうだねぇ」と答える。
八重野もうんうんと頷く。
「そうそう。『ほずみー』のことにだけはすごい熱量なのに、それ以外に関しては究極の面倒臭がりなのよ。だから無駄の削減が上手いんだけどね」
「うん。なんて言ったら良いのかなあ。すごく合理的で底知れないんだけど、時々腹が立つというか……」
「そうなんだ?」
「うん。そう、聞いて? ひどいんだよ! 業務のためだったんだけど、人のことを『鬼会計』なんて言い回ってさ! 文句を言ってもどこ吹く風だし、扱いがひどいと思わない!?」
私はここぞとばかりに今朝の愚痴を吐き出す。
八重野は慣れた顔で「はいはい」と執り成したが、橋爪はぱちくりと目を丸くした。
「青葉っちも、ケンカとかするんだね」
「へ?」
意外そうな顔をされる。
少しの間を置いて、私はハッと口に手を当てた。
どれほど隠せているかはさておき、一応私はまだ教室では『物腰柔らかいほんわかキャラ』を貫こうとしている。
短気な面を良く知る生徒会メンバー、八重野の前だったとはいえ油断した。
「そっかー、青葉っちは生徒会長と仲良しなのかー」
焦る私の内心を知ってか知らずか、橋爪は目を輝かせた。
「もしかして会長のこと、好きだったりする?」
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