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「「えっ!?」」
予想だにしなかった言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまう。
同時に反応した八重野が、なぜか教室をキョロキョロ見回す。
それほどまでに衝撃的な質問だった。
「な、ないない! 恋愛じゃない!」
「えー、そうなの? 怪しーい」
ブンブン手を振って否定するが、橋爪はニヤニヤしたまま。
躍起になって否定すればするほど、頭に熱が集まっていく。
「委員会に来てくれた時も、テキパキと指示する青葉っち、なんか生き生きしてたし。それって会長の影響なんじゃないの?」
「違っ……」
私の仕切り癖はそんなに最近始まったものではない。
反論しようと思ったものの、動揺で言葉が上手く出てこない。
「それにケンカできるってことは、それだけお互い心を開いてるってことでしょ? 素を出せる相手がいるなんて、お似合いだと思うけどなー」
「お似……っ!?」
橋爪は一人、恋バナに花を咲かせる。
対する私の思考はどんどん白くなっていく。
人生で『釣り合っていない』と言われたことはあっても、誰かと『お似合い』と言われたことなどなかった。
予想外の相手との思いも寄らぬ縁を挙げられ、混乱と動悸が止まらない。
「なーんてね! 青葉っちの気持ちはともかく、面白くて素敵な関係だなーと思ったよ」
「私の、気持ち……」
橋爪の言葉を反芻する。
思い出すのは、ちょんまげ茶髪で半笑いする柚木の姿。
何度も腹が立って、怒って、喧嘩をした。
何度も繰り返し尊敬した。
彼の仕事捌きを、いつも目で追っていた。
柚木に対する感情は、喜怒哀楽のどれか一つではとても表せそうにない。
それどころか、ピタリと当てはまる言葉が全く思い浮かばない。
「私は、会長のこと、どう思ってるんだろう……?」
呟きが疑問形になる。
私がもし人生経験豊富な人間だったなら、何か適当な言葉が見付かっただろうか。
例えば、就職をした社会人だったら。
例えば、初恋を済ませた世間一般の女子だったら。
沈黙が落ちる。
頭が上手く機能しない。
山積みの書類より大きい負荷がかかり、処理落ちしているのが分かる。
「ま、まあまあ。柚木くんは変人だし、人のこと煽るの得意な人だしね? 焦って結論を出さなくても良いんじゃない? だから早まらないで、ね?」
普段は真っ先に食い付きそうな八重野が、ほほほと笑いながらフォローする。
私はぎこちなく「そうだよね」とだけ返して、再び口を閉じた。
『お似合いだと思うけどなー』
軽いノリで発されたその言葉は、長く私を悩ませることになるのだった。
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