4話 忙しい時こそ計画的に

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***(side 堀米 正樹)*** 「という訳で」  レクリエーション大会も間近な放課後。  僕、堀米正樹は、桐也と八重野を空き教室に呼び出した。 「今日はちょっと相談に乗ってほしいことがあって、二人に来てもらいました」  本日急ぎの案件はなかったはずだ。  僕は空き椅子にかけた二人を見回した。  八重野は「またか」と呆れた目を向けつつも、「仕方ないな」と言いたげに微笑んでいる。  桐也は、普段であればニヤニヤ半笑いを浮かべているところだが、今日はただぐったり背もたれに寄りかかっている。  僕は前置きも早々に本題を切り出した。 「最近、青葉ちゃんの様子がおかしい気がするんだ」 「まあ、堀米くんがそう思ったんなら、そうなんでしょうね」  大真面目に話し始めると、いつもどおり八重野にあしらわれる。 「で、そう思ったのはどうして? 堀米くんが青葉ちゃんに避けられてるから?」 「う、」  ストレートな言葉がグサリと刺さった。  事実、デート以来彼女との距離を全く縮められていない。どころか避けられている。 「まあ、それもあるんだけど」  一つ咳払いして先を続ける。 「青葉ちゃん、最近業務に集中できていない気がして」 「青葉ちゃんの場合、それくらいでちょうど良いんじゃないかしら」  ボソリと突っ込む八重野の気持ちが分からない訳ではない。  僕とて、仕事中毒気味の青葉が心配でないといえば嘘になる。  それをおいても楽観視できない、そう思うだけの理由があるのだ。 「それが、検算を始めたら一度も電卓から手を離さない青葉ちゃんが、途中で窓を見ていたりするんだよ。一団体の予算消化確認に十分もかからない青葉ちゃんが、三十分以上同じ書類を見つめていることもあるし。何度も中断して何度も何度もやり直しをしているなんて、きっと何かあったに──」 「ストップストップ。相変わらず、青葉ちゃんのこと把握しすぎ、怖すぎ! 単に体調でも悪いんじゃないかしら?」  僕の説明を途中で制止し、八重野が溜め息を吐く。  八重野にドン引きされるのは慣れっこだ。僕は引かずに最後の主張を口にした。 「それに僕だけじゃなくて、最近はトウヤのことも避けているような気がするんだ。かと思えば、トウヤの方を心配げな顔で見ていることも多くて。他の人に対してはあまりそんな感じでもないと思うんだけど……八重?」  異変の最たるものを述べると、八重野の眉がピクリと動いた。  名前を呼べば、その肩がビクリと震えた。 「……えへ。やっぱり、堀米くんもそう思う?」 「八重、何か知ってるんだね?」  視線を落とす八重野からは、微かな焦りが見て取れる。  しばらく見つめていると、八重野は観念したように両手を合わせた。 「ごめん! ここ数週間、何とか軌道修正しようとしたんだけど……あのね、」  八重野は心底済まなそうに眉尻を下げ、目を瞑った。 「青葉ちゃん、柚木くんとお似合いだって言われたことがあってね。それで、その……ちょっと柚木くんのことが、気になってるみたい、なのよね……」  目を見開く。  尻すぼみのその言葉に、身体が急速に冷えていく心地がした。
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