4話 忙しい時こそ計画的に

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「さて、相談はもう一つあるんだ」 「もう一つ?」  きょとんとした八重野に頷くと、僕は桐也に目を向けた。  椅子にもたれ、心ここにあらずといった彼を見ながら、僕は確信を持って告げる。 「青葉ちゃんだけじゃなくて、最近トウヤも様子がおかしいよね」 「確かに、青葉ちゃんもそう言ってたわ」  呼ばれた名前に反応し、桐也がピクリと挙動する。  彼は背もたれに身体を預けたまま、だるそうに口を開いた。 「別に、いつもと変わんねえよ……」  自己申告のとおり、確かに桐也は普段からシャキッとしているとは言い難い。  だが付き合いの長い友人から見れば、彼の異常は一目瞭然だった。 「トウヤ、昨日『ほずみー』の出演するバラエティを録画し忘れたからって、うちに電話してきただろう? 妹が録画しているだろうからって」  彼の推し女優・立花瑞穂の名前を出した途端、桐也は眉根をきつく寄せ、睨むような視線を寄越した。  真性の面倒臭がりである桐也だが、ある一分野に関しては驚くほどまめな性格をしている。  推し女優の出演する番組やニュースを欠かさずチェックしている彼が忘れるなど、天地が引っくり返っても有り得ないと思っていた。 「何でもねえって」  怒気を含む声で言い返される。  人を煽るための茶番ではない。本気で苛立っている声だ。 「そう言っても僕達には通用しないって分かってるよね? これまで何度もトウヤの『相談』を受けてきたんだか──」 「ただの五月病だっつってんだろ!」  僕の言葉を遮って桐也が反駁する。  乱暴にがなる口調に反して、その覇気は薄かった。 「やる気が出ねえんだよ。生徒会にしても、何にしても。ケツ引っぱたかれたらその分の仕事はやるから、放っとけよ……」  かと思うと、か細い声で呟いて机に突っ伏した。  ひどく情緒不安定だ。  その理由に、思い当たる節のある八重野と僕は、ぐっと押し黙る。  僕がかなり補佐をしているとはいえ、桐也は一応生徒会長としての仕事をこなしている。  そして友人としては、葛藤している彼を見守ることしかできない。 「話だったら、いつでも聞くから」 「そうよ。私も聞くわ」 「……言ったって、どうにもならないだろ」  やけになった口振りの桐也を二人で見つめる。    友人として、同じ生徒会役員として、口出しできるのはここまでだ。  あとは彼をそっと支えていくほかない。 「上手く行かないものだね、色々とさ」 「そうね……」  青葉も、桐也も、僕も。  迷宮を彷徨(さまよ)い、出口を欲しているようなものだ。  (まま)ならなさに辟易しながら、僕は席を立ち、廊下へ続く扉を開け放った。
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